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2010年5月29日 (土)

「人工デイヴィッド・リンチ」を作るには

「人工デイヴィッド・リンチを作りたい(I want to build an artificial David Lynch)」というタイトルのブログ・エントリーを見つけて「おお?」と思って読み進んだら、「いやそれ、あんまりリンチとは関係ないんじゃねーの?」だったりしたんですが(笑)、いろいろと面白かったんで御紹介。

このブログを書かれているロブ灰谷(Rob Haitani)氏は、実はPalm PilotというPDAの開発に関わった人で、その後Handspring社勤務……と書くと古くからの「デジモノ好き」の方はおわかりでございましょう。Palmといえば「PCとの連動」や「手書き文字認識」を特徴とした優れモノの電子端末で、ン年前には大山崎もJ-OSを突っ込んだりNewtonキーボードをつないだりして、使い倒しておりました(灰谷氏は、現在どうやら後述するヌメンタ(Numenta)社で勤務されているっぽいです)。

で、これは知らなかったんですが、Palm Pilot開発の中心人物であったJeff Hawkins氏は、もともと大学では脳研究をしていたそーな。PalmやTreoで成功したHawkins氏は会社を売り飛ばしたあと、ヌメンタ社を設立。そこでは人間の大脳新皮質の働きに基づいたインテリジェント・コンピューティング(平たくいうと人工知能)の開発&商品化が行われているそーです。同社のサイトをみるってーと、「移動体」を認識する人工知能を使った「監視カメラ映像検索ソフト」である『Vitamin D』のデモへのリンクがあったりしますが、おー、なんかSFっぽくってヨイぞ(笑)。

こうした人工知能開発の技術としてHawkins氏が提唱しているのが、灰谷氏もブログで言及しているHTM理論……「Hierarchical Temporal Memory theory」ってヤツでありまして、日本語では「階層的一時記憶理論」と称されたりしておりますが、これではナニがナニやらよくわかりません。例によってドンブラコと「ネットの海」を漂ってみるってーと、このよーな説明に行き当たりました(全文はコチラ)。

たとえば人も初めて犬に接した時は犬と分類できないが、犬の形や動きなど神経細胞が捉えた無数の感覚情報がパターンとして蓄積され、それらがつながって犬を認識するモデルが形づくられていく。犬を大まかに分類できるようになっても、初めてシベリアンハスキーを目の当たりにすれば、「これは犬か?」と一瞬迷う。だが、体躯や動きなど過去の犬の特長のパターンから犬と予測できる。それが合っていれば、その時に目の色や模様などシベリアンハスキーの特徴の断片的な情報が、犬を認識する一連のパターンに組み込まれる。すると次回からシベリアンハスキーを判断できるようになり、また「奇妙な模様の犬もいる」という予測の幅も広がる。

Hawkins氏が考える大脳新皮質のメモリシステムのプロセスをソフトウエア化したのがHTMである。認識されたデータは、メモリモジュールが階層的に連なるHTMシステムの最下層に組み込まれる。データのパターンを読み取られ、蓄積されたパターンのつながりとのマッチングが行われる。学習と呼べるような作業である。HTMはアクションがプログラムされていないという点で、通常のコンピューティングとはアプローチが全く異なる。観察を通じて学ぶことで、適切なアクションを起こせるようになるため、HTMシステムでは時間も重要な要素である。能力を発揮するようになれば、予測ツールとして効果を発揮するという特徴を持つ。

……長々と引用してしまいましたが、ははあ、これはもうSFっぽいどころの騒ぎじゃないですね。完全に「人間と同等に思考するコンピュータ」を、それこそ真正面から作り上げようとするハナシなわけでありますな。

んで、これがデイヴィッド・リンチとどーつながるのよ? でありますが、灰谷氏が注目しているのは「人間の創造性」の問題であります。とりわけ「芸術的創造性」が人工的にコンピュータで再現可能であるかどうかが、灰谷氏の記述の眼目といってよいでしょう(念のために付記しておくと、灰谷氏が述べているのは主として「視覚的認識」に基づく分野についてです。たとえば文章解読を目的とした「形態素解析」等の技術については、ここでは述べられていません)。そして、(技術的目標として)「鳩レベルの創造性を目指すのか、デイヴィッド・リンチ・レベルの創造性を目指すのか」といった具合にリンチの名前が出てきます……要するに、一言でいって、灰谷氏がリンチ好きなだけなんじゃねーの? と思ったりもしますが、もちろんこれは人として許されるべきことでありましょう(笑)。

さて、氏は、「そのためにはまず『創造性の定義』から行わなければならない」と述べます。ここで引用されるのが『創造性と脳(Creativity and the brain)』という著作があるKenneth M. Heilmanによる「新しい規則的な関係性(novel orderly relationships)を発見する能力」という定義です。より詳しくいうなら「拡散的思考(divergent reasoning)」、つまり「それまで存在していなかった解決方法を創り出すために、既に存在する方法論を棄てる能力」ですね。また、それに対置されるものとして「収束的思考(convergent reasoning)」、すなわち「蓄積された知識のなかから、既に存在する解決方法を選び出す能力」があります。大山崎が乱暴に考えるに、確かに「拡散的思考」は、新しい作品……というより、新しい芸術運動が(たとえばダダイズムが)それまでの芸術運動を否定するところから始まったように、新しいアプローチなりトレンドなりを創造するうえでの必要案件でありましょう。と同時に、「収束的思考」は(意識的/無意識的な)同一テーマ/モチーフのリフレイン/ヴァリエーション等といった、いわゆる「作家性に還元される問題」における必要案件であるよーな気がします。

興味深いのは、ロンドン大のSemir Zeki教授が研究している(その名もズバリの)「神経美学(neuroesthetics)」についての記述です。教授は芸術的創造性について神経科学に基づいた研究をしているわけですが、視覚的知覚について「一定性(constancy)」と「抽象性(abstraction)」という二大原則を指摘しているそうです。それによると、我々の脳はある対象物を視覚によってとらえたとき、それが備える諸様相のうちの「一定した(変化しない/共通した)部分」に意識を集中すると同時に、「対象物の固有性に捉われる」ことを回避する高レベルの思考を行うんだそうな。灰谷氏も指摘していますが、確かにこれは上に引用した「犬」や「シベリアンハスキー」を認識する際に我々が行う思考活動についてHTM理論が述べていること(「不変表象(invariant representation)」や「階層的推論(hierarchical inference)」)と重なり合っているかも。

もひとつ面白かったのは、何か難問が解けたり冗談を思いついたときの脳活動を測定する研究についてです。どうやら、創造的思想に関連する脳活動のパターンは既に測定されているらしく、であるならばHTM理論がいう「大脳新皮質の働きとのアナロジー」に基づいてその特定パターンを再現するアルゴリズムを組み立てられるなら、もしかしたら本当に「創造的活動を行う人工知能/コンピュータ」が実現するのかもしれません。

ところで、灰谷氏の記述によれば(おそらく上述した「人間が創造的思考をしている際の脳活動に関する研究」によって発見されたんだと思いますが)、「創造的思考」を行っている最中に起きる「注意と集中の対象の変遷」時に発生する脳波の波形は、精神疾患による「幻覚発生」の直前に発生する波形に似ていることがわかったそーです。えーと、これって、つまり「芸術における創造的思考」が「狂気と紙一重」であることが科学的にも証明されちゃった……という理解でヨロシイんでしょうか?(笑) などというのはおそらくは下世話な勘違いでありましょーが、「創造的思考」の最中には、たとえば「『犬とシベリアンハスキー』といったパターン化から外れたもの=普通のヒトには思いつかないもの」を含めて、相当にめまぐるしく「それまで存在しなかったパターン認識」が形成されているのは確かなような。んでもって、これをも含めた「大脳新皮質の働きをシミュレートするアルゴリズム」が完成したなら、マジで「人工デイヴィッド・リンチ」が出来ちゃったりするんでしょうか?

……てな具合に「教えて、偉い人!」と結論をブン投げつつ、このエントリーは終わるのでありました(笑)。

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コメント

http://store.uniqlo.com/jp/store/feature/ut/davidlynch/

大山崎、リンチTシャツ買った?
既にストレイトストーリーは売り切れてるけど

買ったよん。

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