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2010年3月 5日 (金)

Wikipediaをめぐる出版ビジネスと電子書籍のあれこれ

さて、日ごろの話題とはころっと変わりますが、先日のAlphascript Publishing社の話題をきっかけに、Wikipediaに関連した書籍ビジネスの例を調べてみました。

ざっと見回した範囲ですが、まずWikipediaをもとにした書籍ビジネスに手をつけたのは、意外やドイツの大手出版社Bertelsmannでした。2008年に「Das WIKIPEDIA Lexikon in einem Band(The One-Volume Wikipedia Encyclopedia)」という992ページの小百科事典を19.95ユーロの価格で刊行しています。これは、ドイツ版Wikipediaから参照率が高い25,000項目を抜粋したもの(当時の独Wikiの全項目数は750,000項目)。

ドイツ版Wikipediaは記述の正確性が高いことで定評があるらしいですが(国民性ですかね?)、それでもやはりBertelsmann社のほうで校正・校閲を行ったようです。ま、ここらへんは出版社としての矜持でしょうか。好評であれば、年度版として以降毎年刊行することを狙っていたようですが、どうやら続刊が出た様子はありません。

刊行に際して、一冊売れるたびに1ユーロを独Wikipediaに寄付するという仕組みをBertelsmann社は採用しましたが、でもやっぱりこのときもWikipedia執筆者の間で「こういう商売はどうなんだ?」という議論が起きています。最終的には、「GFDL(GNU Free Documentation License)のライセンス下では、商業利用は問題なし」というのが結論になった気配。

次に目に付いたのが、Pediapress。こちらは、Wikipediaからユーザーが自分で選んだ記事項目を、まとめてオンデマンドで書籍化してくれるサービス。最低価格がUS$ 8.90 (100ページ)からということで、Alphascript Publishing社に比べてかなり良心的な価格設定になっています。なんだ、これでいいじゃん(笑)。

サイトにあるサンプルPDFをみてみましたが、「記事は専門家や学識経験者が書いたものとは限らず、誤りがある場合がある。内容の正確さを求めるなら、専門家や学識経験者が書いた書籍を読むことを勧める」由の断り書きがありました。このあたりも、この会社の良心性を物語るものであるといえます。各国語版のWikipediaに対応しているようですが、日本語に対応しているかどうかは不明。

もうひとつが、DailyLit。こちらはちょっと異質で、版権が消滅した書籍や版権がフリーの書籍を、メールあるいはRSSで配信してくれるサービス。一冊を丸ごと配信するのではなく、こちらが読み進むペースにあわせて何ページかずつ配信してくれるところがミソ。「スポーツ偉人伝」など、英語版Wikipediaに記載された記事をまとめたものが3点ほどあります。

現在のところ、登録・配信は無料。試しに「週三回配信」という条件で登録してみて何日かたちましたが、なぜか今のところ配信されてくる気配なし。あれえ?

……という具合にそれぞれに特色があって、ひとくちに「電子出版(およびその周辺)ビジネス」と一口にいっても、多様な方法論があるなと感じました。

そのなかでも、Bertelsmann社の方法論は現行の「書籍」の概念にもっとも近いものであるといえます。とりようによっては、事典を作るに際して、Wikipediaを項目選択のツールに使い、その記述を「第一稿」として流用したという見方ができるかも。

逆にPediapress社のモデルは、ユーザー側が自分の必要な項目を選択できるところが、ウェブとオンデマンドの特性を生かしているように思います。考えてみれば、これもWeb to Printの一形式なんですね。

DailyLit社のサービスも、「ペーパー・レス」であることはもちろんですが、「読書ペース」あるいは「途中で読むのをやめる権利」というユーザー側の自由度を認めている点が、Webベースならではという印象を受けました。

こういう具合に他例をみていくと、やはりAlphascript Publishing社の方法論には何かひっかかりを覚えざるを得ません。と同時に、同社のビジネス・モデルが引き起こしている波紋は、これから日本においても電子出版が本格化したとき、どのような問題が発生し得るかについて示唆を与えてくれるような気がします。そこでは、内容が充分吟味された書籍も、そうではない書籍も、一律に「情報=データ」として並べられることになります。たとえば米Amazonは、自分が書いた文章をKindle版データに変換して売るシステムを設けています。厳しい言い方をすれば、実績のない著者でも、自分の書いた本を大手出版社の本と同列に並べて売ることが可能なわけです。確かにそうした「紙ベースの出版からの解放」のなかでは、既存の出版社では出版不可能な、非常にユニークな本が登場する可能性もあります。しかし、同時に、「検索システム」や「リコメンド・システム」「アフェリエイト・システム」の特性を利用し、それらのシステムにうまく乗っかる手法をとった「書籍」の露出度が上がるという状況も、充分にあり得ることでしょう……そう、Alphascript Publinshing社の本のように。

もしその書籍に充分な「内容」が伴っていない場合、一定のスパンでみれば、ユーザー側の「評価」によってそうした「露出」が無効化されていくだろうことは間違いないと思います。が、ネットがもつフラットな特性は、ユーザー側の取捨選択に対して、逆方向の負荷を与える可能性があることは念頭においておくべきかもしれません……そして、そこでは「出版社」という「フィルター=吟味」が無力化される可能性があることも、また。

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