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2009年8月24日 (月)

「ロスト・ハイウェイ」を観た (55)

お盆が終わってもあいかわらず続く、「ロスト・ハイウェイ」における「イメージの連鎖」について。今回は、(1:36:09)から(1:37:49)をば。

さて、前回述べたように、フレッドは「非難の対象」を「アリス(およびその原型であるレネエ」から「ミスター・エディ=現実」へと移し、「新たな遁走」を試みることで「ピートを核にした幻想/捏造された現実」を維持しようとしている。だが、その間にも「ピートを核にした幻想/捏造された現実」に発生した「失調/変調」はとどまらない。この後、(1:36:09)からのシークエンスでは、そうした「変調」が深く進行している状況が描かれることになる。

では、まず、”「ピートの家」の外部”では何が発生したか、具体的な映像からみてみよう。

デイトン家 外部 夜 (1:36:09)
(1)ロング・ショット。デイトン家の前庭から、家の前の道路と向かい側の家々を見るショット。視点は左に振られており、道路の向かい側に止められた黒い自動車、平屋建ての五軒の家を視界に収めている。街灯がぽつんと灯っているだけで家々は眠りについており、その窓は真っ暗だ。ピートの自動車が画面左から現れる。道路を右に向かって走る彼の自動車を追って、右へパン。彼の自動車の向こう側、道を挟んだ向かいの家のガレージと、その前に置かれたモーター・ボートが見える。なおもピートの自動車を追って右へパン。道路の向こう側、ガレージの右側には向かいの家の平屋建ての建物が見える。道路のこちら側に置かれたピートの両親のライトバン。ピートの自動車はライトバンの向こうを通り、右折して自分の家のガレージの前にやってくる。パン終了。画面右端にはガレージの白い壁の一部が見えている。それに前半分が隠れる位置で停車するピートの自動車。
[ドアが閉められる音]
ガレージの壁の向こうから、画面に姿を表わすピート。それを追って少し左へパン。ピートは何かを認め、歩調を緩める。
(2)ミドル・ショット。デイトン家の玄関。画面右、玄関のドアの前に、腕組みをしたシーラが立っている。黒い上着に黒いTシャツ、黒いミニ・スカートに黒いショート・ブーツ姿である。画面左には、ガレージの白い壁と、それに掛かった籠型の外灯が黄色い光を投げかけているのが見える。その右、シーラの左には窓があり、白いレースのカーテン越しに電気が点いた室内が見える。
(3)ミドル・ショット。ピートの腰から上のショット。呆然とシーラを見詰めているピート。
(4)ミドル・ショット。腕を組んだまま、ピートに早足で近づくシーラ。それに連れて後退する視点。
シーラ:(震える声で)You're fucking somebody else, aren't you.
(5)ミドル・ショット。ピートの腰から上のショット。彼に近づいていくシーラを、背中越しに収めるショット。
ピート: Sheila!
なおも彼に近づいていくシーラ。それを追って前進する視点。
シーラ: You fuck me whenever you want!
ピート: Sheila, Sheila, stop it!
ピートにたどり着き、両手で彼を突き飛ばすシーラ。彼女の剣幕に押されて後退するピート。なおも彼を追いかけるシーラ。それを追いかけて前進する視点。
(6)ミドル・ショット。シーラのアップ。アウト・フォーカスになったピートの背中越しのショット。
シーラ: You don't call! Who is she?!
再びピートを突き飛ばすシーラ。やや画面右方向に後退するピート。
ピート: Stop it!
彼女の背後には、電気が点いたデイトン家の家が見える。その玄関のドアが開けられ、中からピートの父親が姿を表わすのがアウト・フォーカスで見える。なおも右斜め後ろに向かって後退する視点。
シーラ: What's the bitch's name?!
玄関のドアを出て、二人の方に向かってくるピートの父親。その後ろには、母親の姿も見える。
ピート: I'm sorry!
シーラ:(なおも詰め寄りながら)Oh, you're 'sorry'!
ピート:(左手を画面外に伸ばして)Go home!
(7)ピートのアップ。シーラの右肩越しに、やや見下ろすショット。
シーラ: You're 'sorry'?!
後ろに尻もちをつくように倒れるピート。
ピート: Sheila, stop it! Go...
シーラ:(ピートの言うことに耳を貸さず)You're sorry, you piece of shit? You're sorry?!
倒れたピートにのしかかり、彼の体を殴り始めるシーラ。ピートは体を守るように両腕を交錯させ、シーラのなすがままである。
ピート: Go home!
(8)シーラのアップ。彼女の右斜め前から、やや見下ろすショット。
シーラ:(画面外のピートを左手で殴って)Fuck you!
ピート:(画面外から)Stop it, Sheila!
シーラ:(画面外のピートを右手で殴って)Fuck you!
彼女の背後には、デイトン家の前庭の芝生が見える。画面左の芝生の上を近づいてくるピートの父親の足が、アウト・フォーカスで見える。
(9)地面に倒れたままのピートのアップ。なおも彼にのしかかり殴り掛かるシーラの背後からのショット。彼女の後ろ、画面左からピートの父親が現れ、手を差し伸べて彼女を止めようとする。
父親: Sheila, Sheila, Sheila...
シーラ:(なおもピートを殴りながら)Fuck you!
(10)シーラのアップ。背後から差し伸べた両手でシーラの肩を掴み、彼女を止めようとしているピートの父親。彼は肩から下しか視界に入っていない。身をよじって、父親の手から逃れようとするシーラ。
父親: Sheila, stop it!
シーラ: Fuck you!
少し上方にパンし、シーラと父親のツー・ショットになる。後ろからシーラを抱きかかえるようにして、彼女を止めようとする父親。
父親:(なだめるように)Let's both go in and talk about this quietly.
後退する視点。右手の手首を顔にあて、泣いているシーラ。右手を下ろしたあとも、彼女は泣きつづける。彼女の顔を覗き込むようにする父親。
父親: Sheila? Sheila...come on.
(11)地面に倒れたままのピートのクロース・アップ。呆然と泣いているシーラのほうを見上げている。
シーラ:(画面外で)You are different!
父親:
(画面外で)Sheila!
(12)シーラと父親のツー・ショット。ピートの主観ショット。地面から二人を見上げるショット。倒れたピートを見下ろして泣いているシーラ。彼女の右腕を掴んだまま、彼女に話しかけている父親。二人の背後には、木の枝とそれに生えた葉、その向こうの真っ暗な夜空が見える。
シーラ:(父親を見上げながら)Tell him. Tell him!
アウト・フォーカスになるとともに、揺れる画面。
父親: Sheila, don't!
(13)地面に倒れたままのピートのクロース・アップ。半ば口を開けたまま、二人のほうを見上げている。
父親:(画面外で)No.
シーラ:(画面外で)I don't care any more...
(14)シーラと父親のツー・ショット。ピートの主観ショット。地面から二人を見上げるショット。泣きながらピートを見下ろしているシーラ。彼女を見守っている父親。
シーラ: ...anyway.
父親のほうを見るシーラ。
シーラ: I'm sorry, Mr. Dayton.
(15)地面に倒れたままのピートのクロース・アップ。黙ったままシーラと父親の遣り取りを聞いている。
シーラ:(画面外で)I won't bother you...
(16)シーラと父親のツー・ショット。ピートの主観ショット。地面から二人を見上げるショット。泣きながらピートを見下ろしているシーラ。彼女を見守っている父親。
シーラ: or any member of your family ever again.
アウト・フォーカスになるとともに、揺れる画面。
(17)地面に倒れたままのピートのクロース・アップ。頭だけを起こそうとしている。少しアウト・フォーカス気味。若干、彼に向かってクロース・アップ。
(18)シーラと父親のツー・ショット。ピートの主観ショット。アウト・フォーカスのまま。地面から二人を見上げるショット。泣きながらピートを見下ろしているシーラ。彼女を見守っている父親。画面右に向かって走り去るシーラ。
(19)シーラのアップ。彼女の背後からのショット。デイトン家の前の道路に向かって走るシーラの背中。膝から上のショットになるまで。
(20)地面に倒れたピートのアップ。体を起こし、立ち上がろうとするピート。画面左から父親が現れ、右手を差し伸べる。その右手を左手で掴み、立ち上がるピート。それに連れて上方にパン。立ち上がり、ピートと父親のツー・ショットになる。画面の奥、道路のほうを見る二人。彼らの頭の間から、夜の道路と向かいの家のガレージが見える。道路を走り去るシーラの後ろ姿。やがて彼女は父親の後ろ姿の向こうに消える。
(21)ロング・ショット。夜の道路。道路の向こう側、画面の左端には駐車している黒い自動車と、その向こうの家々が見える。道路を走って渡り、自動車の向こう側に姿を消そうとするシーラの後ろ姿。
(22)父親とピートのアップ。ツー・ショット。走り去るシーラの姿を追って、画面左方向を見ている二人の後ろ姿。
母親:
(画面外から)Pete?
体を右回りに回し、自分の背後を振り返る父親。少し間を置いて、ピートも溜め息をつきつつ、左方向に自分の背後を振り返る。
(23)ミドル・ショット。開かれた玄関のドアの前に立っている母親の腰から上のショット。彼女の右には家の白い壁と、閉められたアルミ・サッシの小さな窓、その壁の前の植木が見える。開けられた玄関のドア越しに、リビング・ルームの内部が見えている。
母親:(右手で家の内部を示し)There's a man on the phone.

まず、気がつくのは、このシークエンスにおける「ピートの家」周辺の位置関係および構図である。カット(1)(3)カット(2)(4)を対比させればわかるように、このシークエンスで発生している事象は、「ピートの家(およびその前庭)」と「道路」という位置関係を舞台にしている。

この「ピートの家」と「道路」の位置関係は、たとえば(1:00:14)や(1:26:42)などにみられる「アーニーの自動車工場」と「その前の自動車が行き交う道路」との位置関係と同一である。この「自動車工場」がピートの「職場」であり、「外界」との接触が日常的に発生する場所であるがために「外界/現実の侵入」に対して脆弱であることは、しばしば発生した「ミスター・エディによる侵入」によって端的に表されていたとおりだ。これまでも何度か触れてきたように、リンチ作品において、こうした複数のシークエンス間(あるいはショット間)における「構造的な一致」は、しばしばそこで発生している事象の「等価性」を指し示している。このような”固有のテーマ/モチーフの「リフレイン」(あるいは「ヴァリエーション」)の採用”は、リンチ作品に顕著にみられる特徴のひとつであるといえる。

こうした観点に立つならば、このシークエンスと「自動車工場」のシークエンスの間に認められる”位置関係の「リフレイン」”は、そこで発生している事象が「等価」であること……つまり、「自動車工場」において発生していたのが「外界/現実による侵入」であるならば、現在このシークエンスで発生している事象もまた「外界/現実による侵入」に関連していることを物語っていることになる。だが、現在「フレッドの幻想/捏造された現実」に侵入しているのは「ミスター・エディ」ではない。カット(2)およびカット(4)をみればわかるように、ピート=フレッドと「家」の間に立ちはだかり、彼がそこに帰還することを阻止しているのは「シーラ」だ。

一言でいうなら、これは「シーラの外界化」である。これまでも何度か述べてきたように、そもそもの彼女は”ピートを核にした「幻想」の一部”であり、フレッドに「とって都合のよい存在」であったはずだ。ピートが「現実のフレッド」と共通点をまったくもたない存在であるのと同様、シーラも「現実のレネエ」とは重ならない存在でありながら、同時に「レネエの代替イメージ」として機能していた。たとえば(1:08:29)や(1:23:38)にみられたように、ピート=フレッドが彼女をコントロール下において便利に「利用」してきたことは明らかであり、カット(5)における「好きなだけヤっておいて」というシーラの言及(あるいは代弁)にはまったく反論の余地がない。

だが、このシークエンスにおける彼女はもはやそうした「便利な存在」ではない。ピート=フレッドの彼女に対するコントロールは完全に失効しており、むしろ彼女は明確な「自我」を備え、「幻想/捏造された現実」に対する「侵入者」となって彼を「非難/処罰」する。その点において現在の彼女はミスター・エディと同等であり、「ミスター・エディによる侵入」に対してそうであったように、「シーラによる侵入」に対してもピート=フレッドは限りなく無力だ。たとえばカット(7)の「倒れたピート=低所」と「のしかかる(あるいは立ちはだかる)シーラ=高所」という位置関係が示唆するように、この場を支配しコントロールするのはシーラである。なによりも、地面に転がりシーラにのしかかられるピートの姿は、山道でミスター・エディによって「処罰」を受ける哀れなドライバーの姿(1:04:59)と重なっているといえる。フレッドが「(作品内)現実において受けている処罰」に対して無力なように、ピートもミスター・エディやシーラによる「処罰」に対しては完全に無力なのだ。

もちろん、これまたシーラが言及(あるいは代弁)するように(カット(11))「変わった」のはピート=フレッドであり、こうした「変化」は彼女に起因するものではない。繰り返し述べるように、フレッドの”ピートを核にした「幻想/捏造された現実」が「失調/変調」をきたす契機となったのは、彼の「レネエに対する希求」である。そして、シーラがフレッドにとって「都合のよいもの」でなくなったのは、彼が「アリス」という「より優秀なレネエの代替イメージ」を手に入れたからに他ならない。必要でなくなったシーラは「幻想/捏造された現実」からは除外され、相対的に「外界に属する存在」へとシフトする。結果として彼女が「家」との間に立ちふさがる「侵入者」となり、ピート=フレッドを「処罰」するに至った要因は、結局のところ彼自身の「変化」にあるのだ。

当然ながら、この「シーラによる侵入」によっても、ピートを核にした「幻想/捏造された現実」は打撃を受ける。それを端的に表しているのが、カット(12)およびカット(16)に認められる「揺れ動きつつ、焦点を失う映像」のモチーフである。このモチーフは(1:22:29)や(1:27:39)などにおいて現れたものと同一であり、文字どおり「ピートを核にした幻想/捏造された現実」が”揺さぶられる”様子を指し示していることは、当該シークエンスについて述べる際に触れたとおりだ。そして、(1:22:29)のシークエンスにおいてもそうだったように、このシークエンスにおいても、何度か「ピートの主観ショット」による「揺れ動きつつ、焦点を失う映像」が提示されたあと、最終的には「視点」の「主体」となるピートの映像そのものが「揺れ動く」(カット(17))。「幻想」が受けるダメージは度重なり、最後にはその「核」となる「ピート」にまで及ぶのである。

ピートとシーラの間に介入するのは、「父親」である(カット(9))。多くのリンチ作品においては往々にして「機能しない家族」が描かれるが、この「父親による介入」をみる限りにおいて、「ピートの家族」はその機能性を欠落させていないことがわかる。「ピートの家族」もまたフレッドの「幻想/捏造された現実」の一部であり、「フレッドにとって都合のいいもの」であることを考えるならこれは当然であるわけだが、その一方で、シーラは対照的な反応をみせる。彼女は「家に入って話し合う」という父親の提案(カット(10))を拒絶する。彼女はそもそも当初から「家族」としては機能しておらず、このシークエンスにおいて発生した事象によって、将来的にも「家族」となり得ないことも明確にされてしまった。その限りにおいて彼女が「家の内部」に属することは不可能であり、「侵入者」として排他されるしかない。「父親による介入」を受けた彼女は、「ピートおよびその家族に迷惑をかけることなく」(カット(15)(16))、「幻想/捏造された現実」から退場するのである(カット(19)(21))。

いずれにせよ、もっとも注目しなければならないのは、こうした「外界/現実による侵入」が”「家」に近接した領域”において発生していることだろう。本来「家」は、「外界」に向かって大きく開かれた「職場=自動車工場」とは異なり、「現実からの侵入」に対してもっとも堅固な避難所であるべき領域である。リンチ作品における共通テーマとしての「家」にのっとるなら、「ピートの家」はピート=フレッドの「内面」そのものであり、彼の「意識」や「感情」が内包されている場所なのだ。現在ある「幻想/捏造された現実」がフレッドの「意識」や「感情」を反映して構築されていることを考えるなら、「ピートの家」の内部にあるものは、いわばその「核心部分」だといってよい。ならば、このシークエンスで発生している事象の重要性……つまり、「外界の侵入」が”「家」の領域”の近くにまで及んでいることの重大性が理解されるはずだ。ピート=フレッドが「新たな遁走」を準備していた間にも(あるいはそれがゆえに)、”ピートを核にした「幻想/捏造された現実」”に発生している「変調/失調」はよりその度合いを進め、「崩壊への危機」は一層切迫したものになりつつある。

それを明示するかのように、「現実による侵入」はこれにとどまらない。シーラが「幻想/捏造された現実」から「退場」したあとも、形を変えて「現実による侵入」は続き、もはや「ピートの家」の内部ですら「安全な場所」ではない。新たな「侵入」の始まりを告げるのは、カット(23)で母親が伝える「電話の着信」である。

(この項、続く)

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