フォト
2016年9月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
無料ブログはココログ

« 「ロスト・ハイウェイ」を観た (53) | トップページ | 「ロスト・ハイウェイ」を観た (55) »

2009年8月13日 (木)

「ロスト・ハイウェイ」を観た (54)

お盆休みに入ってもいつもの調子でだらだらと続く、「ロスト・ハイウェイ」における「イメージの連鎖」について。今回は、(1:28:13)から(1:36:09)までについての第五回目。今回は、そのうちのパート3(1:34:14)-(1:36:09)をば。

「アリスによる回想」の(形態をとる)パート2が終了し、パート3では再び「(作品内)現実」へと舞台は回帰する。パート1とこのパート3がいわば「括弧」として機能し、”「パート2=(作品内)非現実」の始まりと終わり”を明確化していることは、このシークエンス全体を概観する際に述べたとおりだ。我々=受容者がこの「括弧記号」を認識できるのは、パート1およびパート3に現れる映像が「共通のもの」であるから……現在論じているシークエンス群を例にすれば、ともに「スターライト・ホテルの一室」を舞台とし、「ピートとアリスが会話を交わすショット(ツー・ショットおよびクロース・アップを含めて)」が提示され、この両パートにおける「(作品内)時制」が一致しているからだ。こうした「共通の(作品内)現実」を示すショットの間に「(作品内)非現実」を挟み込むことによる「(作品内)非現実の明確化」の手法は、すでに1910年代にはハリウッド映画を含めた多くの映像作品に採用されていたものである。

とういう点を再確認したうえで、とりあえずは具体的な映像からみてみよう。

パート3
スターライト・ホテル 客室 内部 夜 (1:34:14)
(48)[音楽は継続している]
青いマニキュアをしたアリスの右手のクロース・アップ。それが伸ばされるにつれて、左へパン。画面左からピートの顔が視界に入ってくる。彼の左頬に当てられるアリスの右手。
[終了する音楽]
伸ばした親指が彼の顔を撫ぜる。無表情なまま、アリスのほうを睨んでいるピート。一度離れかけたアリスの右手は再度伸ばされ、ピートの左頬を撫ぜる。
ピート:(ささやき声で)Why didn't you jest leave?
(49)アリスの左斜め前からのアップ。泣きそうな顔をしている。やがて目を伏せるアリス。
(50)ピートの右斜め前からのアップ。アリスのほうを睨んだままだ。彼の左頬を撫ぜているアリスの右手。
ピート: You like it, huh?
やがてアリスの右手はピートの頬から外される。
(51)アリスのアップ。目を伏せたままのアリス。やがて目を開いてピートのほうを見る。
アリス: If you want me to go away...
アリス:(間)I'll go away.
(52)ピートのアップ。小さく左右に首を振る。
ピート: I don't want you to go away.
アリスのほうに顔を寄せるピート。
(53)アリスのアップ。画面左から、右手をアリスの顔に伸ばすピート。目をつぶるアリス。そのまま画面左から顔を寄せていくピート。目を上げ、ピートを見るアリス。
ピート: I don't want you to go away.
再び目をつぶるアリス。彼女にキスをするピート。そのままアリスをベッドの上に押し倒していくピート。
(54)ピートとアリスのアップ。ベッドに横たわっているアリス。その上に覆いかぶさっているピート。ピートの右側面からのショット。白いシーツ。
ピート: I love you, Alice...
音を立てて口づけを交わす二人。アリスが左手をピートの首筋に伸ばし、彼を引き離す。微かに微笑みを浮かべるアリス。
アリス:(少し左に体を向けながら、ピートを見詰めつつ)Should I call Andy?
ピート: Andy?
ピートの左頬を伸ばした左手の親指で撫ぜるアリス。
アリス: That's his name, 'Andy'. Our ticket out of here.
ピート: Yeah. Call him.
笑みを浮かべ、右手を自分の枕元のほうに伸ばすアリス。ちらりと右肩越しにそちらを見ながら、折った右手の肘を枕代わりにする。
アリス:(左手の人差し指でピートの顎を撫ぜながら)I'll set it up for tomorrow night.
(55)アリスのアップ。ピートの主観ショット。ベッドに横たわったアリスを真上から見下ろすショット。涙でマスカラが流れている。
アリス:(淡々と)You meet me at his place at 11 o'click. Don't drive. Take the bus. Make sure no one follows you. His address is easy to remember. It's 2224 Deep Dell Place. It's a white stucco job on the south side of the street. I'll be upstairs with Andy. The back door'll be open. Go through the kitchen into the living-room; there's a bar there. At 11:15, I'll send Andy down to fix me a drink. And when he does, you crack him in the head, OK?
(56)ピートのアップ。アリスの主観ショット。下から彼を見上げるショット。彼の背後には白い天井が見える。一度目を伏せたあと、決意したように目を上げるピート。
ピート: OK.

このシークエンスでまず注意をひかれるのは、カット(48)とパート2に属するカット(47)との間の「コンティニュティ」である。まず、サウンド・ブリッジとして機能している「I Put a Spell on You」による、音響的なコンティニュティがある。そして、もうひとつが「アリスの動作」によるコンティニュティだ。

この二つのコンティニュティによって強調されるのは、やはり「ミスター・エディとピートの等価性」である。そして、ピートが優秀なフレッドの「代行者/代弁者」である限りにおいて、これは最終的に「ミスター・エディとフレッドの等価性」を指し示していること……より正確にいうなら「フレッドが自らの記憶/感情を土台にして、ミスター・エディ(のイメージ)を構築していること」を指し示していると捉えられる点については、「暖炉で燃える炎」などを例に前回述べたとおりだ。「アリスの動作」によるコンティニュテイは……パート2に終わり(カット(47))でミスター・エディに差し伸べられたはずの「アリスの右手」が、カット(48)ではその対象をピートへと移行させるのは、三者をむすぶこうした「等価性」に基づくものである。

カット(48)からカット(52)にかけて、ピートは「なぜ立ち去らなかったのか?」「それが気に入ったのか」と「アリスの軽挙」を咎める姿勢をとる。だが、それも長くは続かない。いずれにせよ、責はすべてミスター・エディに転嫁され、彼が本当の「非難の対象」となった時点で、アリスは(そしてレネエは)「許容」されるべく決定づけられている。そのとおりに、カット(53)およびカット(54)において、ピートはアリスを許容し彼女への「希求」を明確にする。

しかし、カット(54)以降に示されるように、この「許容」が、結果的に”アリスが提案した(あるいは代弁した)「犯罪」の実行”に同意することにつながっている(あるいは「同義」である)点には注目したい。前述したとおり、一義的には、これはフレッドが「アリス=レネエを許容する」ために、「ミスター・エディ(およびその周辺の人物)」に責任を転嫁し、「処罰の対象」を彼らへと変えているからだ。だが、忘れてはならないのは、カット(54)でアリスが代弁するとおり、その「処罰」=「アンディから金銭を強奪すること」の目的が、そもそも「この状況から脱する」ためのものであることである。要するに、フレッドの意識が向かっているのは、”「ミスター・エディ=現実」による侵入の排除”というよりは、むしろ「新たなる遁走」あるいは「遁走内遁走」なのだ。その意味において、一見積極的行動にみえながら、その本質においてこれは「逃避行動」以外のなにものでもないことがわかる。

それを明示するのが、このシークエンスで「主体」となっているのがあくまでアリスであり、ピート=フレッドではないことだ。ピートから「許容」を引き出す契機となるのは彼女の「別れたほうがいいなら、別れるわ」という発言であるし(カット(51))、その後「アンディに電話をしてよいか?」と「処罰あるいは犯行」を実行に移す”許可”をピートから引き出すのもアリスだ(カット(54))。その”許可”を受けて手配をかけるのもアリスなら、事細かに「犯行の手順」をピートに教唆するのもアリスなのである(カット(55))。この「新たな遁走」に関してさえ、ピート=フレッドはアリスという「代弁者」を必要とし、可能な限り自らが主体となることを回避するのである。だが、こうしたピート=フレッドの「主体性の欠落」が、逆にアリス(ひいてはその原型であるレネエ)の「ファム・ファタール性」を……つまり、その「コントロールの不能性」を浮かび上がらせる結果になっていることには注目しておくべきだろう。

このようにしてフレッドは、「ミスター・エディ=現実」の「直截的な力」による侵入/介入を回避し、自らの「幻想/捏造された現実」と「自我」を守るために、”「新たなる遁走」の道筋”をつける作業を終了する。だが、その間にもピートを核にした「幻想/捏造された現実」が抱えた変調はますますエスカレートし、崩壊の危機に近づいていることが次のシークエンスにおいて明確にされることになる。

(この項、おしまい)

« 「ロスト・ハイウェイ」を観た (53) | トップページ | 「ロスト・ハイウェイ」を観た (55) »

ロスト・ハイウェイ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/215302/45911885

この記事へのトラックバック一覧です: 「ロスト・ハイウェイ」を観た (54):

« 「ロスト・ハイウェイ」を観た (53) | トップページ | 「ロスト・ハイウェイ」を観た (55) »

最近のトラックバック