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2009年6月16日 (火)

「ロスト・ハイウェイ」を観た (48)

まさかのときに書き込まれる「スペインの宗教裁判」……じゃなかった、「ロスト・ハイウェイ」における「イメージの連鎖」の続き。今回は(1:26:29)から(1:27:56)まで。

引き続き、このシークエンスにおいても「失調」をきたしたフレッドの「幻想/捏造された現実」が描かれる。前回のシークエンスの舞台は「家」だったが、今回は「職場」だ。そして、より「現実」に近いこの場所で発生する事象は、前回の「両親による言及」のように曖昧なものではない。より直截的であると同時に暴力的であり、もはや明確な「現実による侵入」の様相を帯びている。

さて、さっそく具体的映像から観てみよう。

アーニーの自動車修理工場 内部 昼 (1:26:29)
(フェイド・イン)
(1)ミドル・ショット。フィルとピートのバスト・サイズのツー・ショット。画面左にこちらのほうを向いたフィル、画面右端には、半ば背中を向けて左側面をみせているピート。ピートは白いTシャツ姿で、うつむいて画面外で作業をしている。横目でピートをちらりと見るフィル。
フィル: Hey.
声を掛けられ、頭を上げてフィルを見るピート。顎を軽くしゃくり、自分の正面のほうを示すフィル。
フィル:(目だけでピートをみながら)Mr Eddy.
[(画面外で)自動車のドアの閉められる音が工場内に響く]
慌てて左背後を振り返るピート。フィルは下からねめつけるように画面手前のほうを見たあと、画面外の自分の手元に視線を落とす。
(2)ミドル・ショット。工場の内部から、入り口の方向をみるショット。工場の真ん中ほどあたりまで入り込んで停車している黒いベンツ。ベンツの正面をこちらに向かって歩いてくるスーツ姿のミスター・エディ。背後のベンツの左側では金髪のボディ・ガードが、右側では黒髪・口髭のボディ・ガードが、同じく画面手前に向かって歩いてくる。画面奥の道路には自動車が行き交っている。ミスター・エディが工場の奥に向かって歩くに連れて、左にパン。二人のボディ・ガードはちょうどベンツの前あたりで立ち止まり、仁王立ちになって待機する。そのまま画面手前に向かって歩き続けるミスター・エディ。
(3)ミドル・ショット。手を拭いつつ、左肩越しに自分の背後のほうを見ているピート。フィルは画面左、作業台の向こうで右手に持った金属のパーツを左手でいじっている。顔を伏せながらもピートの様子をうかがっているフィル。作業台を離れ、向き直って画面右に向かって歩き始めるピート。手元に目を落として作業に戻るフィル。ピートが歩くに連れて右へパン。
(4)ミスター・エディのバスト・ショット。工場の奥から入り口方向を見たショット。彼の背後左にはアウト・フォーカスで半ば閉じられた赤いシャッター。彼の右背後には金髪のボディ・ガードが立っているのが見える。バスト・ショットからアップになるまで歩き続けるミスター・エディ。
ミスター・エディ: Hey,
(5)ピートのアップ。バストショット。彼の左斜め前からのショット。画面右手、ミスター・エディのほうを見ているピート。アップになるまで進む。
ミスター・エディ:(画面外で) Pete!
(6)ミスター・エディのアップ。ピートの右肩越しの、斜め右からのショット。
ミスター・エディ:(ピートに近付きづつ)How you doing?
(7)ピートのアップ。ミスター・エディの左肩越しの、斜め左からのショット。
ピート: I'm OK.
(8)ミスター・エディのアップ。ピートの右肩越しの、斜め右からのショット。ピートに顔を近づけ、彼の目をのぞきこむようにするミスター・エディ。
ミスター・エディ: I'm sure you noticed that girl that was with me the other day...Good-looking blonde? She stayed in the car?
(9)ピートのアップ。ミスター・エディの左肩越しの、斜め左からのショット。細かく首を振るピート。
(10)ミスター・エディのアップ。ピートの右肩越しの、斜め右からのショット。ピートの様子をうかがうミスター・エディ。
ミスター・エディ: Her name is Alice. I swear I love that girl to death.(首を振りながら)If I ever found out somebody was making out with her...
沈黙し、ちらりと自分の右方向を見てから、またピートを見るミスター・エディ。
(11)ミドル・ショット。ピートとミスター・エディのバスト・サイズのツー・ショット。ピートの右側面からのショット。右手で銀色の大口径の拳銃を取り出すミスター・エディ。
(12)ピートのアップ。ミスター・エディの左肩越しの、斜め左からのショット。右手の拳銃の銃口を上方に向けて持ち、ピートの顔の前に突きつけるミスター・エディ。
ミスター・エディ: I'd shove it so far up his ass it would come out his mouth.
(13)ミスター・エディのアップ。ピートの右肩越しの、斜め右からのショット。右手に持った拳銃をちらつかせながら、ピートの顔をのぞき込むミスター・エディ。
ミスター・エディ:(沈黙)And then you know what I'd do?
(14)ピートのアップ。ミスター・エディの左肩越しの、斜め左からのショット。脅えた表情。
ピート: What?
(15)ミスター・エディのアップ。ピートの右肩越しの、斜め右からのショット。右手に持った拳銃をちらつかせながら、ピートの顔をのぞき込むミスター・エディ。
ミスター・エディ: I'd blow his fucking brains out...
唇の端を吊り上げて笑うミスター・エディ。笑顔を浮かべてピートの顔をのぞき込んだまま、画面外で拳銃をしまう。
(16)ピートのアップ。ミスター・エディの左肩越しの、斜め左からのショット。言葉が出ない。
(17)ミスター・エディのアップ。ピートの右肩越しの、斜め右からのショット。満足気に画面外でピートの肩を叩くミスター・エディ。
ミスター・エディ: Hey.(画面外でもう一度肩を叩き)You're looking good. What you been up to?
ピートの顔を見つめるミスター・エディ。
(18)ピートのアップ。ミスター・エディの左肩越しの、斜め左からのショット。黙ったままミスター・エディをみつめているピート。彼の顔にクロース・アップするとともにアウト・フォーカスになる。
(ディゾルヴ)

このシークエンスにおける「失調をきたした幻想」を指し示す事象は、観てのとおり「ミスター・エディによる訪問」という事象をとおして描かれる。この「訪問」自体が「現実による侵入」であることは、たとえば(1:00:23)や(1:12:50)における「ミスター・エディによる訪問」がそうであるのと同様である。これらの”「訪問」によって表わされるもの”が備える「共通性/等価性」は、現在論じているシークエンスを含めたこの三つのシークエンスに登場する「ミスター・エディ関連の映像」が、ともに”背後に配置された「開放された自動車工場の入り口」や「自動車が行き交う道路」”(カット(2)(4))という「彼と外界の関連性」を表象する「共通項」を備えている点にも表されている。また、ミスター・エディが保持している(そして恣意的に行使できる)「直截的な力」を指し示す「二人のボディガード」の存在も、これらのシークエンスが備える「映像的共通項」である。

だが、今回の「ミスター・エディによる訪問」は、前述した(1:00:23)や(1:12:50)の「訪問」とは様相を異にしている点がある。表層的なところはともかく、その本質において今回の「訪問」は、前二回がそうであったような「友好的なもの」では、必ずしもない。というよりもそこに認められるのは、ミスター・エディによる彼の「直裁な力」の露骨な誇示であり、その力によって処罰される「対象」が”あるいは”ピート=フレッドである可能性が示唆されるといった、(ピート=フレッドにとって)むしろ「敵対的」な性質のものである。

なによりも、この”あるいは”という仮定が「仮定」ではないことをフレッドは(そして我々=受容者も)熟知している。フレッドの「内面」においては(もしくは彼が構築した「幻想/捏造された現実」においては)、「アリスの獲得」がもはや「既定事実」であるのは明白だ。その意味でフレッドが「ミスター・エディの処罰の対象」であることもすでに決定済みであり、このシーケンスで発生している事象……「ミスター・エディによる訪問」は、フレッドにとってあらかじめ「予見」されていたはずの事態だったといえる。具体的にいうなら、(1:21:50)におけるアリスの言及……「ミスター・エディが何かを察知しているようだ(I think he suspects something.)」という電話後しの言及は、フレッドのそうした「予見」を「代弁」するものに他ならない。「レネエの代替イメージ」である「アリス」に関与することは、すなわちそれが付随させる「現実のイメージ」の喚起につながり、それはそのまま「幻想/捏造された現実」に対する「現実の介入/侵入」に至る。このシークエンスで描かれているのは、まさにそうした”あらかじめ発生が予見されていた「事象」”である。

あえて指摘するならば、この「予見された事象」が、同時にフレッドにとって「出来れば回避したい事象」であることも間違いない。それを裏付けるように、「ミスター・エディの侵入」を先に認めるのが「フィルであってピートではない」ことは注目に値する(カット(1))。「現実の介入」が不可避であると知りながら、ピート=フレッドは可能な限り「都合の悪い事態」を先送りしようとし、出来れば「知らないふり」を通そうとする。ピートと比較して「より間接的なフレッドの代行者」であるフィルによって「ミスター・エディの侵入」が認識されるのは、まさしくそのためだ。

度々指摘してきたように、このような「認識の先送り」あるいは「意識的/無意識的な誤認=知らないふり」は、”フレッドによる「欺瞞」”以外のなにものでもない。そしてそれが「欺瞞」であり得るのは、そうした「認識」そのものが「客観的な事実」に反しているからだけでなく、どちらかといえばフレッド自身が「それは客観的な事実ではない」と「認識」しているからである。この後のシークエンスを観ても理解されるように、フレッドがそう「認識」している限りにおいて(映像的現象面でいえば「ミステリー・マン」が存在している限りにおいて)、彼にとって「都合の悪い事態」は必ず「現実」のものになる。言葉をかえれば、フレッドがたとえどれだけ巧妙かつ精緻な「幻想」を構築しようと、彼の裡にある「レネエに対する希求」を排除できない限り、それは必然的に崩壊するしかない。

さて、このようなことを念頭におきつつ「ミスター・エディとピートの遣り取り」を観たとき、まず気がつくのはカット(6)およびカット(7)におけるミスター・エディとピートの会話が表象するものである。「調子はどうだ?」というミスター・エディの問いかけは、一見すると何でもない普通の「挨拶」のようにも受け取れる。だが、子細にみればこれは直前の「ピートの家」におけるシークエンスにおいて、父親がピートに対して発した「具合が悪そうだな(You don't look so good)」という「問い掛け」(1:24:31)の「ヴァリエーション」であることがわかる(このことは、後のシークエンス(1:38:17)において、より明瞭にされることになる)。いずれにせよ問題は、ピート=フレッドの状況が、彼がそれに応えて言うような「OK」な状況では間違ってもないことだろう。「頭痛」という形而下的問題と「失調を呈し始めた幻想」という形而上的な問題を抱えたフレッド=ピートの「現状」を評するなら、むしろ父親の発言のほうがストレートであり的確だ。あるいはこれもまた”フレッドの「欺瞞」の表れ”として了解するならば、カット(17)における「調子が良さそうだな」というミスター・エディの発言は「大きな皮肉」であり、かつ「反語的」なものであることになる。

このように、このシークエンスにおける「現実による侵入」は「ミスター・エディによる侵入」という非常に端的な形で表現され、かつ、そこに認められる「記号」はたとえば「拳銃」(カット(11)(12)(13)(15))のように直裁的であり、ストレートに「処罰」のイメージとむすびついている。山道で「ルール」を守らなかった哀れなドライバーを「追跡/追求」の果てに「処罰」したのと同様(1:04:21)、いつでもミスター・エディは「直截的な力による処罰」をピート=フレッドに対して行使することができるのである……そう、ちょうどフレッドが「客観的(作品内)現実」において受けているのと同じような「直截的な処罰」を。こうした「直截性」は、直前のシークエンスにおける「現実の侵入」が「デイトン家の内部」における「両親による曖昧な言及」(1:24:18)に留まっていたのとは対照的であり、同時に「自動車工場=職場」という「より現実/外界に密着した場所」において「よりエスカレートした形」でリフレインされている。このシークエンスが提示している事象を、”「幻想/捏造された現実」の「失調」がその度合いをより進めたことの表れ”として理解されるのは、まさしくこのような機序によってだ。そしてこの「失調」が、「前半部」の「幻想/捏造された記憶」においてそうであったように、フレッドの内面において「現実に関する記憶」が次第に蘇りつつあることをも意味していることはいうまでもないだろう。

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