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2009年4月12日 (日)

「ロスト・ハイウェイ」を観た (40)

てなことで続く「ロスト・ハイウェイ」における「イメージの連鎖」のお話であったりする。今回は(1:14:56)から(1:18:22)まで。まずは、具体的な映像から。

どこか 外部 夕刻 (1:14:56)
--Will last forever...
(ディゾルヴ)
(1)ロング・ショット。夕焼け。近くの山、遠くの山。その間に広がる雲海。右から左へパン。沈もうとしている夕日が視界に入ってくる。茜色の雲。夕日が画面真ん中までくるまでパン。
(ディゾルヴ)
(2)ロング・ショット。暗い海辺の丘。下方から上方へパン。海を挟んだ半島。水平線に沈もうとしている夕日。茜色と灰色が混じった雲。空が画面の上三分の一を占めるまでパン。
(ディゾルヴ)
(3)ロング・ショット。都市の夕方。藍色に染まっている、雲が浮かんだ空。画面下端には灯りが点っている建物。空と建物が接しているあたりの雲は、夕焼けの茜色のなごりがある。

このように「This Magic Moment」をサウンド・ブリッジにしつつ、映像はディゾルヴによってピートのアップから「夕暮れの山々」や「日没の海辺」、そして「街部の夜空」といった情景へと変遷する。ごくストレートに捉えるなら、このシークエンスは、直前および直後のシークエンスの間に発生している「時間経過」を途中経過を省略しつつ示すものとして了解されるはずだ。具体的映像においても、現在論じているシークエンスの直前に提示されていたのは”ミスター・エディに連れられて「アリス」が自動車工場を訪れた「昼間」”のシークエンス(1:12:50)であり、直後に提示されるのは”ピートが「職場」での仕事を終えて工員仲間と談笑している「夕刻」”のシークエンス(1:15:19)である。この間に発生している「時間経過」は、現在論じているシークエンスが提示する「時間経過」と一応は合致しているわけだ。

だが、作品全体を見回したとき、このシークエンスは少なからず「奇異」である。少なくともこのシークエンス以前には、このような表現は……「山部や海辺の情景」のような前後のシークエンスとはまったく無関係な情景が、それこそいわゆる「イメージ映像」のように挿入されるといった表現は存在しない。というより、これまでみてきたように、「ロスト・ハイウェイ」が(あるいはリンチ作品のすべてが)フレッドの(あるいは各作品の登場人物の)「感情」や「意識」をキーにした「イメージの連鎖」によってそのコンテキストを構築しているならば、このような表現の採用はむしろそれを阻害するものでしかない。

では、このシークエンスが提示するものがいわゆる「イメージ映像」的な発想に基づくものでなく、ひいては単純に作品中の「時間経過」を示唆する表現に収まらないと仮定したとき……すなわち、これまでの諸映像がそうであったように”フレッドの「感情」や「意識」を表象するもの”であるとしてみたとき、この「夕刻」から「夜」に向かうこの一連の映像は何を表象していると考えられるのか? それについて論じる足掛かりとして、まずは続く(1:15:19)から(1:18:22)に至るシークエンスにおいて提示されている事象がどのようなものかを確認しておきたい。

アーニーの自動車修理工場 内部 夜 (1:15:19)
(4)ミドル・ショット。仕事が終わり、工場内で談笑している修理工たち。ピートは作業ツナギの上半身をはだけ、黒のTシャツ姿で画面に背中を向けている。ピートに煙草の火をつけてもらう黒人の修理工。二人の間には、腰までぐらいの高さの赤い移動工具棚がある。工場内の照明は落とされ、この二人の左あたりだけが天井からの照明で明るくなっている。二人の向こうには白い作業台があり、その上にはいろいろな工具類が置かれている。工具台の向こうにも二人の修理工が、その右手の赤色の工具らしいものの右、画面の右端にも修理工が一人立っている。
(5)ミドル・ショット。(1)のショットのアップ。画面に背中を向けて立っているピートの、腰から上の後ろ姿。彼と向き合って煙草を吸いながら話している黒人の修理工。その背後では、フィルがもうひとりの黒人の修理工と談笑している。
ピート:(右腕を振りながら)Well, he's the boss.
(6)
ミドル・ショット。工場内から工場の入り口をみるショット。暗くなった道路。向かいの店の照明とネオン・サインが見える。画面左から黄色のタクシーがゆっくりと現れ、入り口に停車する。
(8)ミドル・ショット。工場内のショット。画面に背中を向けているピートの腰から上の背中。左手に煙草を持ち、彼と話をしている黒人の修理工。二人の背後を、画面手前、工場の入り口のほうを見ながら、フィルが画面右から左へと移動する。
(9)ミドル・ショット。工場内から工場の入り口を見るショット。停車したタクシーの右後部ドアを開けて、白いミニ・ドレス姿のアリスが降りてくる。後ろの道路を激しく行き交う自動車の列。自分の右背後を半ば振り返り、ドアを閉めるアリス。バッグを腰の前あたりに両手で持って、工場の入り口に立ちつくす。その背後で発車し、画面右に消えていくタクシー。
(10)ミドル・ショット。工場内のショット。画面に背中を向けているピートの腰から上の背中。左手に煙草を持ち、彼と話をしている黒人の修理工。二人の右手に立ち、入り口のほうを見ているフィル。
フィル: Holy smokes!
左に振り向いて、入り口のほうを見るピート。その左手に持っていた煙草を口にくわえ、画面左のほうを見る黒人の修理工。
(11)ミドル・ショット。工場内から工場の入り口を見るショット。バッグを両手で体の前に持ち、画面左三分の一あたりに立ち尽くしているアリス。彼女の背後では、右方向に向かう自動車が速度をゆるめ、停車し始める。
(12)ミドル・ショット。好場内のショット。ややひいたショット。左に半身になり、工場の入り口のほうを振り返っているピート。その左には移動式工具棚に手をつき、身を乗り出すようにして、画面手前の入り口のほうを見ているフィル。その右で煙草をふかしている黒人の修理工。彼らの背後、背の低い作業台の向こうに立っている黒人の修理工。やがてピートは向き直り、画面手前に向かってゆっくりと歩き出す。
(13)ミドル・ショット。工場内から工場の入り口をみるショット。画面手前、工場の内部に向かって歩き始めるアリス。
(14)ミドル・ショット。工場内のショット。画面手前、工場の入り口に向かって歩くピート。
(15)ミドル・ショット。工場内から工場の入り口をみるショット。歩き続けるアリス。腰の上あたりまでのショットから、アップまで。それに連れて右にパン。ピートの左肩越し、彼の左後頭部を収めたショットになる。
(16)ピートのアップ。アリスの右肩越し、彼女の右後頭部を収めたショット。ピートの背後には、アウト・フォーカスになった工場内が見える。アリスを見つめるピート。
ピート: Hi.

見てのとおり、このシークエンスで描かれているのは「アリスの再訪」……すなわちフレッドの「幻想/捏造された現実」の内部における「レネエの代替イメージの再発生」という事象である。前回彼女が現れたときと同じように(1:12:50)、あるいはそもそもミスター・エディが初めて姿を現したときと同じように(1:00:14)、今回のアリスも「自動車工場の入り口」という開口部を通じた「外部からの侵入」というパターンを踏襲して現れる(カット(9))。だが、彼女が初めて「自動車工場」に現れたときとの「差異」は簡単に見て取れるはずだ。そう、そこには「現実=ミスター・エディ」の姿が欠落している。前回の彼女がミスター・エディの運転する自動車に乗せられて……つまり、彼の「支配下」におかれた状態で現れ退場したのに対し、今回の彼女は「タクシー」という手段を「自己の意思」で使い、ミスター・エディの支配を逃れて単独で姿を現すのだ。

もちろんこの「アリスの再登場」という事象自体がフレッドの「意識や感情の反映」として発生していることは自明であり、端的にいえばその発生の要因が彼の「レネエに対する希求」であることは指摘するまでもないだろう。この「希求」の存在は、カット(12)およびカット(14)における「レネエに向かって近づくピート」の映像にも表れているといえる。ピート=フレッドが「恋人(の幻想)」であるシーラに充足しておらず、そのために「アリス=モデファイされたレネエ=レネエの代替イメージ」がフレッドによって構築されたと考えられることについては、以前に指摘したとおりだ。ということは、基本的に「アリス」のイメージがフレッドの「幻想」の一部であり、彼女もまた彼の「代弁者/代行者」として機能すると同時に、彼にとって「都合のよい存在」であることを意味している。続いて提示される具体的映像からも、これらの諸点は明瞭に認められる。

(1:16:20)
(17)アリスのアップ。ピートの左肩越しのショット。少し左に首をかしげ、笑みを浮かべながらピートを見るアリス。
アリス:
I'm Alice Wakefield.
ピート: Pete Dayton.
目をつぶり、また開けてほほ笑むアリス。彼女の背後の道路を行き交う自動車。
アリス: I was here earlier.
(18)ピートのアップ。アリスの右肩越しのショット。笑みを浮かべ、何度か小さく頷くピート。
ピート: Yeah. I remenber.
(19)アリスのアップ。ピートの左肩越しのショット。笑みを浮かべたまま、黙ってピートをみつめるアリス。
アリス: How'd you like to take me to dinner?
(20)ピートのアップ。アリスの右肩越しのショット。笑うピート。
ピート:(首を振りながら)Uh, I don't know, I...
(21)アリスのアップ。ピートの左肩越しのショット。目をつぶり、また開けて笑い掛けるアリス。
アリス:(少し顎を突き出し)OK. Why I don't take yo to dinner?
(22)ピートのアップ。アリスの右肩越しのショット。笑いが消え、真剣な顔のピート。頬を膨らませた後、口を切る。
ピート: Look, uh...I don't think (首を振りながら)this is a very good idea.
(23)アリスのアップ。ピートの左肩越しのショット。しばし黙ったあと、無理をして笑みを浮かべるアリス。目をつぶり、左に首をかしげ、また目を開けて尋ねる。
アリス: Do you have a phone?
(24)ピートのアップ。アリスの右肩越しのショット。真剣な表情で、少し沈黙する。
ピート: Yeah. It's right,(自分の右を見ながら、画面外でそちらを指差し))it's right there.
再び、アリスと向き合うピート。
(25)ミドル・ショット。ピートの左側面からの、アリスとピートのツー・ショット。首をかしげてピートを見つめているアリス。首を突き出すようにして、アリスをみつめているピート。
アリス: I'm going to have to call myself another taxi.
二人の背後には、上半分がガラス窓になった、赤く塗られた仕切りが見える。仕切りのガラス窓越しに、工場の内部が見えている。白い横方向のシャッターは閉められ、その向こうに照明のついた赤や青の看板、道路を走る自動さのヘッド・ライトがアウト・フォーカスで見えている。左を向き、画面手前に背中を向けながら、仕切りの壁ぎわの電話機に向かって歩くアリス。画面手前に背中を向け、彼女を見守るピート。右手で受話器を取り、耳に当てながらピートを振り返るアリス。
(26)ピートのアップ。アリスを見ているピートの正面からのショット。鼻から煙草の煙を出すピート。
アリス:(画面外で)Hello?
(27)ミドル・ショット。仕切りの壁ぎわで、ピートに右半身を見せながら電話を掛けているアリス。その右には、それを見守っているピートの背後の腰から首あたりまでが見える。
アリス: Ban Nuys? Could I have the number for Vanguard Cab?
(28)ピートのアップ。アリスを見ているピートの正面からのショット。
(29)ミドル・ショット。仕切りの壁ぎわで、ピートに右半身を見せながら電話を掛けているアリス。その右には、それを見守っているピートの背後の腰から首あたりまでが見える。画面に背中を向け、タクシー会社の電話番号を書き留めるアリス。
(30)ピートのアップ。アリスを見ているピートの正面からのショット。やがて意を決したように前に進み、画面左に消える。
(31)ミドル・ショット。画面に背中を向け、右手に受話器を持ち左手にバッグがぶらさげつつ、タクシー会社の電話をかけるアリス。彼女に近づいていくピートの後ろ姿。それを追って、前進するショット。
アリス: Hello. Yes, I need taxi. Arnie's Garage, the cotner of 5th...
少し右にパンしつつ、二人のバスト・ショットになるまでクロース・アップ。アリスが持っている受話器に右手を伸ばすピート。それを取り上げ、うつむき加減に左側面をみせながら耳に当てる。
ピート: Hello? Uh, yeah, we're not going to need that cab. Thanks.
画面右手のピートのほうをやや振り返るアリス。そのまま受話器を電話機に戻すピート。彼はアリスを見る。笑みを浮かべながらピートのほうに向き直るアリス。仕切りに背中を向け、ピートを見つめる。しばし、黙ったままみつめあう二人。やがて、アリスはピートのほうに二歩近づく。
アリス:(しばらく躊躇ったあと)Maybe we should just skip dinner.

カット(19)以降に描かれているアリスの「言動」は、フレッドにとってこれ以上ないほど「都合のよい」ものであることは論をまたない。アリスはピートを「食事」に誘い、彼のほうは「どうかな(I don't know)」と応える(カット(20))。要するに、(1:08:48)におけるピートとシーラの遣り取りの「ヴァリエーション」をこの二人はリフレインしているのだ……ただし、「男女の位置」を逆にした形で。これがフレッドによる巧妙な「自己弁護」であり、「欺瞞」でしかないことは明白だろう。シーラのときと違い、彼はあくまでこの再度の邂逅を意図したのは自分ではなく、アリスであることにしたいのである。そのほうが彼にとって「都合のいい」ことは、たとえば今この瞬間アリスが「ミスター・エディ=現実」から分断されているとしても、彼女が基本的に「現実」のイメージを付随させその支配下にあることを考えれば明らかだ。このシークエンスの具体的映像においても、彼女は「工場」の「外界=自動車が行き交う道路」を背にし、それと関連付けられていることがわかる(カット(9)(11)(17))。

なによりもミスター・エディが備える「直截な力」に関しては、「山道」のシークエンス(1:02:57)における事象をとおしてピート=フレッドもよく知るところだ。であるからこそ、(フレッドに都合よく)なおも迫るアリスに対して、ピートは「それはあまりいい考えではないと思う」と婉曲に断らざるを得ない(カット(22))。繰り返しになるが、フレッドは「レネエの代替イメージ=アリス」を構築しておきながら、同時にそのイメージが自分にとって危険なものであることを……「ミスター・エディ=現実」による「幻想/捏造された現実」への「介入/侵入」を発生させる可能性を秘めたものであることを認識している。あるいは「前半部=幻想/捏造された記憶」が、”「ビデオ・テープ」によって表される「ありのままの記憶」”や”コントロール不能な「現実のレネエ」のイメージ”の侵入によって崩壊させられたことも、フレッドにとっては苦い経験だったはずだ。そもそもそれを踏まえて、フレッドは自分とは大きくかけ離れた「人格」であるピートを核にした「幻想/捏造された現実」を構築したのではなかったか? ピートはこうしたフレッドの「意識」を、その言動によって忠実に「代弁/代行」するのである。

その一方で、前述したように、アリスもフレッドの「意識/感情」を……つまり彼の「レネエに対する希求」を「代弁」し、彼が「意図」する行動を「代行」する存在である。となれば、このシークエンスにおける「ピートとアリスの遣り取り」もまた、「ピートとシーラの会話」(1:10:08)あるいは「ピートとフィルの会話」(1:11:45)と同じく、フレッドの「内面」で発生している二律背反的な「葛藤」を表象していることがわかるだろう。はたして自分=フレッドは、「希求」にしたがって「アリス」を手に入れるべきなのか?

こうしたフレッドの「内面」に発生している「葛藤」を踏まえるなら、カット(23)にみられる彼女の表情が意味するものも、また別な観点から捉えられるはずだ。ストレートに考えるならば(つまり、ナラティヴな観点からみるならば)これは男から誘いを断られた女性の内心を語るものだ。だが、アリスをフレッドの「代弁者/代行者」として考えるなら、これは「希求の対象」をあきらめようとした瞬間にフレッドの「内面」をよぎったものを「代弁」していることになる。

ピートに「誘い」を断られたアリスは、再び「タクシー」で去ろうとする(カット(31))。彼女がタクシーを呼ぶために使用しようとするのは、「前半部=幻想/捏造された記憶」において、何度も繰り返し「外界との間接的接触手段」として登場した「電話」である。しかし、その「外界との接触」をピートは遮断する。その後彼が(あるいは彼らが)とった行動をみるなら、このピートによる「電話の切断=外界との接触の遮断」が表象するところは明白だろう。彼は「外界=現実」との接触を拒否し、自らの「内面」を、そしてそこで発生している「感情」を優先するのだ。彼は「レネエの代替イメージ=アリス」への「希求」を選択する決意をしたのであり、それはカット(30)における彼の表情からも明らかだ。

これまで述べてきたことからもわかるように、フレッドにとってはこれはかなり大きな「意識の変動」である。もちろん、この「変動」は、フレッドが抱いている「レネエへの希求」がどれだけ強いものであるかを物語ると同時に、彼が彼女を殺害するに至った「心理的経緯」を我々=受容者が理解するための手掛かりを提示するものだ。一応、それらの事項を理解しつつも、我々はやはりこのシークエンスにおけるフレッドの「心理的変遷」の落差を思わずにはいられない。片方で「現実の侵入」への恐怖を抱きながらも、彼がこの「決意」に至る機序とはどういうものなのだろうか? あるいはその「変遷の落差」を埋め、作品の全体構造のなかで彼のこの「決意」が意味するものを明確にするのが、冒頭で挙げた”「夕刻」から「夜」へと変遷する映像”であるわけだが、その詳細に関しては次回に譲ろう。

(この項、続く)

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