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2009年3月17日 (火)

「ロスト・ハイウェイ」を観た (37)

てなことで、「ロスト・ハイウェイ」における「イメージの連鎖」についてである。今回は(1:11:45)から(1:12:50)まで。

「恋人(の幻想)」であるシーラを「使い」、「幻想/捏造された現実」の修復を遂げるとともにそれへの統制を取り戻したピート=フレッドだったが、その後も「現実の侵入」は止まらない。このシークエンスで描かれるのもそうした「現実の侵入」を表す事象であり、その舞台となるのは、やはり彼の「幻想/捏造された現実」においてもっとも開放され、「現実の侵入」に対して脆弱である部分……「職場(の幻想)」である「アーニーの自動車工場」においてだ。

アーニーの自動車修理工場 内部 昼 (1:11:45)
(フェイド・イン)
(1)ミドル・ショット。ジャッキ・アップした自動車の下で仰向けになり、作業をしている作業服姿のピート。ピートの足元左斜めの方向から見下ろすショット。画面左には、修理されている自動車の白いボディの一部と、白リボンのタイヤとホィールの一部が見えている。右手でボディの裏側にある何かをいじっているピート。
[ラジオからジャズが流れている]
(2)ミドル・ショット。初老の修理工(フィル)の腰の上あたりのショット。彼の左斜め前、やや下方からのショット。大きなジャッキ台で目の高さに上げられた自動車を修理しているフィル。長いドライバーを使ってネジを外し、外したネジを自分の左手にある棚式の工具入れの上に置くフィル。置き終わって、また別のネジを外しにかかる。
(3)ミドル・ショット。車の下で仰向けになって作業しているピートの、足元左斜めからの見下ろすショット。両手をボディの陰に突っ込んで、何かをいじっているピート。
[高まるテナー・サックスの音]
手をだらりと下ろし、目をつぶって顔をしかめるピート。左手を頭のあたりに持っていく。あえぎ始めるピート。左手は、頭を離れて左胸のあたりに置かれる。まず左手を、次に右手を修理していた車のボディにかけ、起き上がるピート。それに連れて右上にパン。立ち上がり、赤い工具入れの上に置かれた卓上ラジオに右手を伸ばし、選局のダイヤルを回す。
[局間のザーというノイズ]
(4)ミドル・ショット。フィルの腰から上あたりのショット。右手に持ったスパナを見ていたが、ラジオの音楽が消えたのに気づき、画面左手を見る。そのままスパナを両手で持ち、首を右にかしげながら、ピートのほうに近づくフィル。それを追って左にパン。
(5)ピートのアップ。彼の左側面、やや後方からのショット。うつむき加減に左に体を回すピート。苦しそうな表情をしている。
(6)ミドル・ショット。ピートの正面からの腰の上あたりからのショット。右からレンチを両手で持ったフィルが近寄ってくる。少し後退する視線。
フィル:(ピートのほうに首を突き出すようにしながら)What'd you change it for?
フィルのほうを見るピート。
(7)ピートのアップ。フィルの左肩越し、斜め左からのショット。唇をなめるピート。
フィル:(ラジオのほうに首を振って)I like that.
ピート:(あえぎながら)Well, I don't.
画面左方に目を逸らすピート。
(8)ミドル・ショット。ピートの正面からのショット。画面左下方に目を落とし、あえいでいるピート。そのまま自分の右前のほうに歩き始める。それを追って、左へパン。アップになるまで近付き、またローラーのついた作業台の上に腰を下ろし、ついで仰向けになるピート。だが、右手を頭の上に投げ出して苦しそうにしており、すぐに作業にはかかれそうにもない。
(9)ミドル・ショット。フィルのバスト・ショット。斜め右、やや下方からのショット。半身になり、右手の人差し指をラジオのほうに向けて振るフィル。
フィル: I like that.
右手を下ろし、自分の作業を続けるために右手に歩くフィル。それを追って右へパン。持っていたレンチを工具台の上に置く。画面右に見えているジャッキ・アップされた自動車の一部。
(10)ミドル・ショット。仰向けになって車の下に潜り込んでいるピート。足元、斜め左からの見下ろすショット。作業に戻ろうとしているが、すぐにだらりと左手を左胸に乗せ、目をつぶる。
[流れているピアノ音楽]

カット(1)(2)(3)で、ラジオから流れているフリー・ジャズは、「前半部」においてフレッドが「ルナ・ラウンジ」で演奏していた曲と同一である(0:06:52)。つまり、この「音楽のイメージ」は、「フレッドの現実=ありのままの記憶」のイメージに関連しているものであるわけだ。結論からいうなら、これは形を変えた「現実の侵入」なのである。そもそも「後半部」におけるピートを核にした「幻想/捏造された現実」は、「フレッドの現実」に関連するものを可能な限り排除し、それと重ならないイメージを集積することで成立していたはずである。であるからこそこの「幻想/捏造された現実」はフレッドにとって「遁走の対象」となり得るのであって、そこに「フレッドに関連するイメージ」が現れることは、本来は考えられない事態なのだ。

この「音楽=現実の侵入」を耳にしたピートは、頭痛を訴え「苦悶」する(カット(3))。頭を押さえ顔をしかめるその様子は、死刑囚房のシークエンスでフレッドがみせた様子とまったく同一である(0:47:04)。この「同一性」は、第一義的には、フレッドとピートの「同一性」……つまり、フレッドとピートが、その「内面性」において本質的に「同一の存在」であることを示唆するものである。これ以降もピートはときとして同様の「苦悶」をみせるが、そのトリガーとなっているのは、やはり「フレッドにとって都合の悪い事象」の発生である。ピートを核にした「幻想/捏造された現実」が「ありのまま現実の侵入」を受け、フレッドの「意識」が「ありのままの現実」への覚醒に傾くに際し、ピート=フレッドは(肉体的にも)「苦悶」を覚えるのである……「現実」から逃れ「遁走」に向かう直前にそうであったように。

いうまでもなく、このシークエンスで発生している事象……「ありのままの現実」に関連する「音楽のイメージ」の発生……も、フレッドにとって「都合の悪いもの」である。それを回避するために、彼の「代行者」であるピートは「ラジオ局を変える」というリアクションをとる(カット(3))。ところが、このリアクションは、同じ工員仲間であるフィルの非難の対象となってしまう(カット(6))。この二人による音楽を巡る「遣り取り」が、実は前回とりあげた「ピートとシーラの会話が表すもの」の「構図(パターン)」を踏襲しており、いわばその「ヴァリエーション」であることはおわかりだろう。フィルもまた、シーラやピートと同様「フレッドの代弁者/代行者」として機能し、フレッドの「もうひとつの感情」を「代弁」しているのである……すなわち、「ピート=フレッド」はこの曲が「嫌い」だが(カット(7))、「フィル=フレッド」はこの音楽が「好き」なのだ(カット(7)(9))。「ピートとシーラの会話」と同様に、「ピートとフィルの会話」もフレッドの「内面」で発生している葛藤を表象している。本来「好き」であるはずの音楽を、フレッドは自分の「幻想/捏造された現実」を維持するために「嫌い」と宣言しなくてはならない……フレッドが抱く背反した「感情」を、「代弁者/代行者たち」は雄弁に物語るのである。

さて、大きな視点で捉えるなら、最初の「アーニーの自動車工場」のシークエンス(0:58:53)以降に提示される一連の「事象=イメージ」が、フレッドの「感情」や「意識」を反映し、それらをキーにして連鎖的に発生していることは指摘するまでもないだろう。フレッドが構築した「職場=自動車工場」のイメージは、「顧客」のイメージを連鎖的に発生させ、それは「ミスター・エディ=現実」のイメージを喚起してその「侵入」を呼んでしまった。次にそれは「ポルノのビデオ・テープ」という「現実のレネエ(に対するフレッドの疑惑)」のイメージを付随させた「脅威」の喚起へとつながり、それによる「ダメージ」から「幻想/捏造された現実」を修復する作業は、フレッドの「内面」において発生している「背反した感情」をかえって浮き彫りにしてしまう。こうしてみる限りにおいて、「前半部」における「幻想/捏造された記憶」の崩壊がそうであったように、「後半部」における「幻想/捏造された現実」を崩壊に導くのも実は「フレッド自身」の「意識」や「想念」に他ならないのだ。かつ、「後半部」の幻想を「崩壊」させる萌芽は、実はかなり早い段階から現れていることに気づく。

とはいえ、ピート=フレッドは、まだそれほどの危機感を抱いてるわけではない。「ラジオのチューニング」を変えて「現実の侵入」の排除に成功することに表れているように、「幻想/捏造された現実」のコントロールは現在も彼の手の中にある。ピート=フレッドは「ありのまま現実」の侵入を警戒しながらも、自分はそれが引き起こす「危機」を回避できると思っている。そして、みてのとおり、実際、それに成功しているのだ……少なくとも今のところは。

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