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2009年2月 9日 (月)

「Beautiful Dark」を読む (10)

ああ、そーゆーのもあったわね……と思い出しつつ続く、Greg Olson著のデイヴィッド・リンチ伝記本「Beautiful Dark」のおハナシ。「エレファント・マン(The Elephant Man)」(1980)製作前後のころに関する章を読み終わったので、今回はそこらへんについて。

「イレイザーヘッド」が完成したあと、リンチは映画製作の実作業から離れて、早朝一回の新聞配達(まだやってたんかい)と近所の「ビッグ・ボーイ」で「チョコレート・シェイク+砂糖をガバっと入れたコーヒー」で「シュガー・ハッピーな日々」三昧でありました。リンチが何年間も毎日毎日「ビッグ・ボーイ」で昼食をとっていたことはつとに有名な話で、Olson氏はここらへんにもリンチの嗜好……「コントロールが効くミニマルなもの」への嗜好をみとてりますが、まあ、それはそれとして。

これまた有名な話ですが、「イレイザーヘッド」製作の途中から、リンチは「ロニー・ロケット(Ronnie Rocket)」という作品のシナリオを書き始めておりました。しかし、リンチ本人はこの作品を「イレイザーヘッド」と同じように自主制作的に作る心積もりはなかったようです……まあ、ありゃシンドかったもんな(笑)。「イレイザーヘッド」が自主制作作品としてはそこそこ興行的にも成功したこともあって、リンチとしては「ロニー・ロケット」をメイン・ストリームでの製作を……つまりどこかのスタジオに企画をもちこんで誰かの資本を使うという、ハリウッドの製作スキームのもとで製作する道を探っていたようです。しかし、メジャー・スタジオはこの作品の興行的価値を認めず、リンチは内心鬱々とした日々を送ってた様子です。まあ、巷に流布しているシナリオを読んでも、そりゃ無理からぬところがある……というか、結局「ロニー・ロケット」は、今日現在に至るまで日の目を見ていないわけですけども。

そんな鬱々リンチのところに、スチュワート・コーンフィールド(Stuart Cornfield)というプロデューサーが訪れます。彼は「イレイザーヘッド」を観て「今まで観たなかで、もっともユニークな傑作」と感じ、リンチのところにやってきたのでした。それをきっかけに二人は友人になりますが、ある日、鬱々のリンチは「(自分は)他の人間が書いたシナリオで映画を作ることも考えている」由の発言をします。これを聞いたコーンフィールドがリンチに話したのが、自分が最近読んだクリストファー・デヴォア(Christopher De Vore)とエリック・バーグレン(Eric Bergren)の二人の脚本家による「エレファント・マン」のシナリオのことでした。後に、リンチは「『エレファント』と『マン』という言葉をコーンフィールドから聞いた瞬間、頭の中で小さなノイズが起こり、自分がこの作品を製作することになるだろうと悟った」と発言しています。ピピッときたわけっすね(笑)。

また、これも後になっての言及になりますが、リンチは「エレファント・マン」という作品が「(自分を)メイン・ストリームへと連れて行ってくれると同時に、妥協を要求することもない格好の乗り物だった」と述べています。「自分にとっての関心事がそれだった。芸術を一般的なものにしたいと思っていたんだ。自分が本当に入れ込み、それを作ることが気に入ると同時に、他の人々も作品を気に入っていれることを望んでいた。それが可能なのかどうか、考えていたんだ」と。

この企画は、リンチとコーンフィールド、そして同じくプロデューサーのジョナサン・サンガーの三人による「ビッグ・ボーイ」(笑)での会議を経て、コメディ映画監督のメル・ブルックスのところに持ち込まれます。当時、ブルックスは「ブルックスフィルムズ」という会社を立ち上げ、作品のプロデュースを開始しようとしていたところでした。リンチのことをよく知らなかったブルックスにコーンフィールドが「イレイザーヘッド」を観せ、それをブルックスがいたく気に入って話がまとまったこと等はすでにいろいろなところで言及されているので、割愛。いずれにしても、リンチ、大ラッキー(笑)。

ロンドンで撮影を開始したリンチが、ジョン・メリックの特殊メイクを作ろうとして時間を無駄に費やし、「そーゆーことは専門職に任せろ」と諭された件や、当初トリーヴス博士役のアンソニー・ホプキンスと衝突した件なども、有名な話なのでこれまた割愛。追記しておくべきかと思われるのは、1979年の秋にロンドンに到着したリンチがまずこだわったのは、テーマ的なところではなく美学的なところ……端的にいうと「モノクロ」での撮影であったようです。「この作品はモノクロでなければならなかった。モノクロの画面は魔法のようなものだ。それは観る者を現実から即座に一歩切り離し、茫洋とした気分にさせる」というのがこの件に関するリンチの弁。幸い、ジョナサン・サンガーもメル・ブルックスもこれに同意し、「エレファントマン」はイギリス人撮影監督フレディー・フランシスによって撮影されることになります。

さて、作品そのものに関してもOlson氏の詳細な分析があるんですけど、そのなかから興味深かったポイントをいくつかピック・アップしてみますってーと。

Olson氏は、「エレファント・マン」において、リンチ特有の「抽象的表現」が三つのパートにおいてみられることを指摘しています。つまり、「プロローグ」「作中におけるジョン・メリックの夢」「エンディング」の三箇所です。逆にいうと、それまでの作品……たとえば「グランドマザー」や「イレイザーヘッド」では全編にわたって爆発していた「抽象的表現」が「エレファントマン」では限られたパートにおいてのみ現れているということです。かつ、それらは全体を通して語られる明確なストーリー・ラインのなかに組み込まれる形で提示されており、こういう形式が採用されたのは、リンチが「商業作品」を意識したことの現われではないか……という具合にOlson氏はみています。

まず、「プロローグ」で提示される「第一の抽象表現」ですが、そこに現れるさまざな映像と音響……「インダストリアルな音響をバックに現れるジョン・メリックの母親であるメアリー・ジェーン・メリックのイメージ、そこに重ねられる象のイメージ、象に打ち倒されて地面で叫び声をあげるメアリーのイメージ、そして白い煙のイメージに重ねられる赤ん坊の泣き声」ですが、Olson氏はまずここにヴィクトリア朝時代に人口に膾炙したいわゆる「胎教(maternal impression)」の概念をみてとります。といっても、その当時のことだもんで、「妊婦のお腹に苺をのっけたら、苺型の痣がある子供が生まれる」ってな民間信仰的っつーか非科学的っつーかなものなわけですが、要するに、この「プロローグ」は「サーカスで象をみて脅えたメアリー・ジェーン」から象に似た身体的障碍を備えたジョンが生まれた……ということを伝え、これから登場する主人公の生い立ちに関する「説明」として機能しているということですね。

しかし、「プロローグ」に対するこの見方は、「第二の抽象表現」……作品のなかほどで提示される「メリックの悪夢」が表すものによって、修正を迫られることになります。まず、この「第二の抽象表現」のパートで提示されるイメージ群は、明らかにジョン・メリックの内面において展開されている「悪夢」であることが示されています。それを何よりも明確にしているのは、ここで採用される「カメラの視点」です。Olson氏いわく、「リンチのカメラはメリックが人前に出るときに被っている布製のフードを見つけ出す。そのフードには、彼が外を見るための長方形の穴がひとつ開けられている。リンチはこの暗黒の開口部を通り、そこに流れているメリックの暗い夢の中へと潜っていく」……とまあ、ここでもリンチ作品に頻繁に現れる「侵入する視点」のモチーフが認められ、その直後に提示される映像群は「メリックの悪夢」そのものを表象しているというわけですね。かつ、この「悪夢」において、「プロローグ」にも現れた「叫び声をあげるメアリー・ジェーン・メリック」のイメージが再提示されるとともに、「プロローグ」と同じくこの「悪夢」もまた「白い煙」のイメージで締めくくられることになります。これらの共通点からOlson氏は、「第二の抽象表現」が「メリックの夢」であるならば、「プロローグ」もそうであるはずだと結論付けます。つまり、「プロローグ」で描かれているのは、ジョン・メリックが想起している「自分の母親や自分が属する時代に関する事柄」である……という具合にOlson氏は捉えるわけです。

(ちょいと中途半端だけど、続く)

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