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2008年11月18日 (火)

「ロスト・ハイウェイ」を観た (14)

チンタラと続く、「ロスト・ハイウェイ」における「イメージの連鎖」についてである。今回は(0:18:44)から(0:21:56)までを追いかけてみることにする。

んでわ、まずは具体的な映像から。

フレッドの家 玄関 内部 朝 (0:18:44) 
(フェイド・イン) 
(1)ミドル・ショット。階上から玄関へと続く階段を降りてくる黒いローブ姿のレネエ。それに連れて左へパン。階段を降りたレネエは、そのまま玄関のドアを開ける。ドアからは、陽光に照らされた外の風景が見える。
[犬の鳴き声]
玄関から出て、外の階段に置かれた新聞に手を伸ばすレネエのドア越しのショット。膝を折ってしゃがみこみ、新聞を拾い上げる途中で、何かを認める。 
(2)ミドル・ショット。レネエの背後斜め右からの、玄関のドア越しのショット。画面外の新聞を手にしゃがんでいるレネエ。階段の下のほうを見ている。立ち上がるレネエ。それにつれて上方にパン。階段を降り、再びしゃがみ込むレネエ。それを追って下方にパン。左手で何かを拾い上げるレネエ。マニラ封筒だ。右手に新聞を持ったまま、立ち上がりつつマニラ封筒の中をのぞくレネエ。それに連れて上方にパン。
[犬の鳴き声]
前方、鳴き声がしたほうをやや見上げるように見るレネエ。やがて、マニラ封筒に目を落としつつ、玄関に引き返そうとする。
[再び、犬の鳴き声が続く]
立ち止まり、鳴き声のほうを見上げるレネエ。どこから鳴き声がしているのか、探すように左右を見る。
[なおも続く犬の鳴き声]
鳴き声を背に、玄関に戻るレネエ。玄関をくぐり、アップになる。
[なおも続く犬の鳴き声]
視線を落としたまま、背後で玄関のドアを閉める。そのまま、画面右手に姿を消すレネエ。枠にはまった玄関のガラス戸。 

見ての通り、フレッドの「家」に第二の「ビデオ・テープ」が届くシークエンスである。第一のビデオ・テープと同様、このビデオ・テープもやはり「新聞」を取りに来たレネエによって「発見」され、「回収」される。そこまでは完全に”第一のビデオ・テープの「発見と回収」”(0:09:39)の「リフレイン」だといえるだろう。ただし、この両者を「対置/併置」されるものとしてみたとき、そこにはいろいろな相違点が認められる。

真っ先に気が付くのは、このシークエンス全体をとおして聞こえる「犬の鳴き声」である。「外界」からの「客観的情報」を表す「新聞」と同じく、この「犬の鳴き声」もビデオ・テープの「付属物(アトリビュート)」であり、その「性格」を補助的に表すものとして理解してよいだろう。そして、この「犬の鳴き声」が指し示すものは、複合的である。

まず思いつくのは、フレッドの「代行者/代弁者」であるレネエが「ビデオ・テープ」を手にし、「家の内部」に持ち込むことに対する「警告」である。「ビデオ・テープ」は「レネエ殺害」に関するフレッドの「ありのままの記憶」の象徴であり、それは彼が自我を保護するために創り上げた「幻想/捏造された記憶」を崩壊させるものであるが故に、彼にとって「忌避の対象」であるからだ。だが、現状、いまだ「幻想/捏造された記憶」を保持しているフレッドには、その「警告」の意味するところが明瞭には把握できない。彼が感じているのはあくまで「漠たる不安」であり、それを表すように、この執拗な「犬の鳴き声」の出所をフレッドは(そして、カット(2)にあるように彼の「代行者/代弁者」であるレネエも)特定できずに終わってしまう。

加えて、この「犬の鳴き声」には、「監視/追及」のイメージも付随している。見えない場所から「フレッドの家=フレッドの内面」を見張り、そこに垣間見える動きを「監視する存在」の示唆である。この「監視/追及」のイメージを伝える映像群は後半部において顕著であり、そこでは「警察」というより直裁なイメージでも現れている。だが、このシークエンスの「犬の鳴き声」に付随している「監視/追及」のイメージは、それほど単純ではない。レネエを殺したことの「罪悪感」と、それから逃れて「自我」を守りたいという「要求」、そしてやはりレネエを我が物にしたいという「欲望」の間で、フレッドの「意識」は揺れ動いている。「幻想/捏造された記憶」を創り上げるのがフレッドであるなら、「ビデオ・テープ=ありのままの記憶」を保持し、それを「フレッドの家」に届けるのも「彼自身」である。同様に、最終的に彼を「監視/追及」するのも「彼自身」に他ならない。たとえ他の誰かの「監視/追及」から逃れられたとしても、自分の「意識」からは逃れられないからだ。「犬の鳴き声」(によって表されるもの)でもってフレッドを追い詰めるのは、フレッド自身なのである。

次に気がつくのが「視点の位置」である。このシークエンスにおける「視点の位置」は、「第一のビデオ・テープ」のシークエンスとの対応において、完全に逆になっている。後者では、「フレッドの家」の外部からのショットによってレネエによるビデオ・テープの「発見/回収」が提示された。それに対しこのシークエンスでは、「家」の内部から「玄関のドア越し」の視点によって同じ行為が提示されるのである。”「人間の内面」を表すものとしての「家」”というリンチの共通テーマからみたとき、この「視点の変遷」は非常に興味深い。「外界からの視点=客観的な視点」はもはや放棄され、「内面からの視点=主観的な視点」がそれにとってかわる。そして、この「主観的な視点」は、ドアの隙間から覗き込むようにして、狭く分断された「外界」をぼんやりとしたアウト・フォーカスで「認識」するのである。前項で述べた「作品構造上の混乱」を機に、「「ロスト・ハイウェイ」は”「フレッドの内面における事象」の表象”という方向にむかって、本格的にその描写をシフトし始めるのだ。

フレッドの家 リビング・ルーム 内部 朝 (0:19:31) 
(3)ミドル・ショット。リンビング・ルームの内部。新聞とマニラ封筒を手に持ったレネエが入ってくる。入り口脇の点灯された電気スタンドが置かれた棚にマニラ封筒を置くレネエ。
フレッド: (画面外から)You're up early.
レネエ:
That dog woke me.
新聞を手にリビング・ルームを出て、通路を右へと姿を消すレネエ。同時に、画面右手前、リビング・ルームの奥から暗い色のパジャマを着たフレッドが姿を現す。フレッドの背後からのバスト・ショットになる。
[かすかに聞こえる犬の鳴き声]
フレッド: Who the hell owns that dog?
左の方を見ていたフレッドは、右に顔を向ける。そのまま入り口の方に歩くレネエ。棚の前まできたとき、その上に置かれたマニラ封筒に気づく。
フレッド: What's that?
棚の前で立ち止まるフレッド。
フレッド: (画面外のレネエに向かって)Another videotape?
レネエ: (画面外から)Yeah.
マニラ封筒に手を伸ばし、それを取り上げるフレッド。中からビデオ・テープを取り出し、マニラ封筒は棚に戻す。
フレッド: (画面外のレネエに)Don't you want to watch it?
レネエ: (画面外から)I guess so.
ビデオ・テープを両手で持って、ビデオ・デッキの方に歩くフレッド。テープをデッキにセットし、長ソファに戻り、テーブルの上のリモコンを拾い上げて、長ソフアに腰を降ろす。リモコンをデッキに向け、ボタンを押すフレッド。
[ピッというリモコンの操作音] 
(4)TVモニターのアップ。ノイズが画面に走る。
フレッド: (画面外から)Well, don't you want to watch it? 
(5)ミドル・ショット。長ソファに座ってモニターを見ているフレッド。レネエが皿に載せた白いコーヒー・カップを両手に入り口に姿を現す。
レネエ: Yeah.
そのまま長ソファに歩み寄り、フレッドの右、やや離れたいちばん端に腰掛ける。 
(6)モニター画面のアップ。前回と同じ、フレッドの家の外観のモノクロ映像。左にパンして玄関付近を映す。(0:11:49)からの「第一のビデオ・テープ」の映像と同一のものである。 
(7)レネエのアップ。右のフレッドを見る。
レネエ: It's the same thing.
再びTVモニターの方に目を移すレネエ。 
(8)モニター画面のアップ。玄関に向かってズーム。 
(9)フレッドのアップ。食い入るようにモニターを見ている。
[ザーッというノイズ]
フレッド: No, it isn't. 
(10)モニター画面のアップ。家の内部。一瞬、ノイズとともに映像が乱れる。リビング・ルームの内部。高い位置から、右回りに回りつつ前進する映像。低いテーブルと二人がいま座っている長ソファが映る。 
(11)レネエのアップ。脅えた表情でフレッドの方を見る。
レネエ: Fred... 
(12)フレッドのアップ。レネエを見ていたが、再びモニター画面の方を振り返る。
(13)モニター画面のクロース・アップ。荒い走査線が見えている。左へパン。ベッド・ルームへの通路。ノイズとともに乱れる画面。通路を進む視点。 
(14)フレッドのクロース・アップ。目のあたりのアップ。
[ノイズ] 
(15)モニター画面のクロース・アップ。荒い走査線。ベッド・ルームの入り口から、右回りに内部に侵入していく高い位置からの視点。床を映し出していたが、やがてベッドが視界に入ってくる。ベッドの上にはレネエとフレッドが寝ている。
レネエ: (画面外で脅えた声で)What? 
(16)レネエのクロース・アップ。目のあたりのアップ。 
(17)モニター画面のクロース・アップ。荒い走査線。なおもフレッドとレネエが寝ているベッドに近づいていく視点。
[高まる音楽] 
(18)レネエのクロース・アップ。目のあたりのアップ。 
(19)モニター画面のクロース・アップ。荒い走査線。寝ているフレッドとレネエのアップ。雑音とともにスノー・ノイズになる画面。 
(20)レネエのアップ。呆然と長ソファから立ち上がるレネエ。それを追って上方にパン。
[高まり、途切れる音楽]
レネエ: We have to call the police.

カット(3)にみられるように、「家の内部」においても「犬の鳴き声」のモチーフは継続される。フレッドが「どこの犬だ?」と発言するのは「鳴き声」が意味するものに対する彼の「認識の曖昧さ」を表しているとして、興味深いのはレネエが「あの鳴き声で起こされた」と言及していることだ。「ロスト・ハイウェイ」を観た (9)で述べたように、”フレッドが自分の「内面=家」においてレネエを「想起した=起こした」ときにのみ、彼女は「内面=家」に「存在」する”という考えに基づくなら、これは「犬の鳴き声」が(および、それによって表される「監視/追及」のイメージが)フレッド自身の「意識」に由来するものであることを示唆しているといえるだろう。

続いて、「家」の内部に持ち込まれた「第二のビデオ・テープ」は、「第一のビデオ・テープ」と同じように再生される。「第二のビデオ・テープ」に対する二人の「態度」も、基本的に「第一のビデオ・テープ」のシークエンスを踏襲しており、その「リフレイン」となっている。すなわち、カット(3)の「観たくないのか?」「そう思う」という二人の会話、あるいはフレッドが「観ないのか?」と繰り返しレネエに尋ねる描写、フレッドがレネエの返事を待たずにビデオ・テープを再生し始める描写などが端的に表しているように、このシークエンスにおいてもレネエはビデオ・テープを観ることを躊躇い、むしろ積極的に収録された映像を確認しようとするのはフレッドのほうだ。このあたりの「図式」と「それが表すもの」は「第一のビデオ・テープ」のシークエンスとまったく同一であり、フレッドの「内面」における葛藤や乖離を指し示すものである。

異なっているのは、ビデオ・テープに収めてられている「映像」だ。これも途中までは「第一のビデオ・テープ」の内容の完全な「リフレイン」である。ただし、「第一のビデオ・テープ」が「フレッドの家」の「外観」を映して終わったのに対し、「第二のビデオ・テープ」はその「内部」の映像を映し出す。カット(10)(13)(15)にみられるように、そこに現れるのは「侵入する視点」のモチーフであり、その「視点」は「家の内部」を最終的に「ベッド・ルーム」まで「侵入」する。つまり、この「視点」はフレッドの「内面」を、彼のもっとも思い出したくない「記憶」に向かって分け入るのである。もちろん、この「進捗するビデオ・テープの映像」が表象するのは、フレッドが「ありのままの記憶」を取り戻しつつあるということだ。好むと好まざると「実際に起きたこと」の「記憶」は何かの折にフレッドの「意識」に蘇り、彼が創り上げた「幻想/捏造された記憶」を根底から揺さぶる。「第一のビデオ・テープ」と同じように「第二のビデオ・テープ」の映像もノイズまみれであり、明瞭ではない。それと同じぐらい朧げであるものの、彼は徐々に、しかし確実に「何が起きたか」を思い出し始めている。

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