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2008年9月27日 (土)

「ロスト・ハイウェイ」を観た (1)

えー、ちょいと一週間ばかり、南のほーでボーっとしておりました(笑)。それもすんげえ「山ん中」で木やら森やら鳥やら虫やらの自然方面はスゴイんですが、当然ながらネット・カフェなどあるわけもなく、ブログやらメールやらすっかり忘れて思いっきりボケっとしてたもんで、いやもう「社会復帰」がヤバいっス(笑)。いや、海辺も行ったんですが、現場についてまず現地の方から受けたのが「ハブに噛まれたときの応急手当」のレクチャーだったてのも、なんか思いっきりな感じでございますな(笑)。

さて、では、ボチボチと社会復帰のリハビリを兼ねて、「ロスト・ハイウェイ」に関する記述を始めることにする。ときどき復帰できないまま何か書くかもしれないけど、ま、テキトーに(笑)。

まずは事実関係的なところをば、軽くおさらい。

この作品はデイヴィッド・リンチの劇場作品としては7作目になり、アメリカでは1997年2月に、日本では同年6月に公開された。撮影開始は1995年11月だが、リンチの弁によれば、3月にはシナリオがアップしていたらしい。だが、製作出資契約をしていた「CIBY2000」からのゴーがなかなかかからず、この時期の撮影スタートとなった様子だ。なお、当時、「CIBY2000」とリンチは三本の映画製作契約を交わしており、「ロスト・ハイウェイ」はその二作目になる。ちなみに一作目は「ツイン・ピークス 劇場版」(1992))であり、この後、三本目の製作前にこの契約は「CIBY2000」側から破棄された。

撮影は、Mojeve Desert、Chapel Hillをはじめとするカリフォルニア州の各地で行なわれた。「ロスト・ハイウェイ・ホテル」の外観撮影にはDeath Valley JunctionにあるDeath Valley Buildingが使われ、内部の撮影には同じくDeath Valley JunctionにあるAmargosa Hotelなどが使われた。また、主人公のフレッド・マディソン宅の撮影には、Hollywood hillsにあるリンチの自宅が使用されたことは有名である。

一方、シナリオ製作に際しては、「ワイルド・アット・ハート」(1990)の原作者であるバリー・ギフォードが共同執筆者として参加している。あまり自作について語らないリンチの姿勢もあって、製作側の意図が表に出ないのがリンチ作品の常だ。だが、この作品に関してはギフォードからの発言が多々残されているため、リンチ作品にしては製作側からの証言が豊富な部類であるといえるだろう。加えて、シナリオが書籍の形で出版され、その邦訳まで出ているのも珍しい。この作品の撮影シーン等が「ナイト・ピープル」(原題:Pretty as a Picture/1997)というドキュメンタリー映像として残されているのも、特筆すべき点である。

バリー・ギフォードとのシナリオ執筆作業だが、共同でシナリオを執筆する作業自体は、「エレファント・マン」ではクリストファー・デヴォアと、TV版「ツイン・ピークス」ではもちろんマーク・フロストと、「ツイン・ピークス 劇場版」ではロバート・エンゲルスと行っており、この作品以前にもリンチはすでに経験済みである。しかし、執筆作業自体に関する経緯が部分的にせよ明らかにされている点で、「ロスト・ハイウェイ」は特殊であるといえるだろう。

たとえば、この作品に関して、1994年6月に発生した「O・J・シンプソン事件」に着想を得た……というリンチ自身の証言が残されている。

「あの映画のアイデアはテレビでO・J・シンプソンがゴルフをしているのを観たことから始まっている。この男は奥さんを殺したのに、どうしてこんなに楽しそうにゴルフなんかできるんだろうって思ったんだ。そこで僕は瞑想をしてシンプソンの気持ちになってみた。そうしたら理解できたんだ。彼は妻を殺した時の自分を記憶の中で別人格として分離しているに違いないってね。人格乖離、心因性記憶喪失というやつだ。シンプソンは自分の中で複雑に、しかし精緻に記憶を組み替えて殺人という現実から自分を守っているんだよ。その精神構造をそのまま映画化したのが僕の『ロスト・ハイウェイ』なんだ」

引用元をみればわかるように、この発言は「ロスト・ハイウェイ」公開時ではなく、その五年後の2001年、「マルホランド・ドライブ」の公開にあわせたインタビューにおけるものである。これを読む限りでは、確かにリンチは「シンプソン事件」を念頭においてこの作品を作ったように受け取れるが、2002年に出されたリンチ自身の別証言によれば、どうもそういう単純な話でもないようだ。この2002年の発言では、”シナリオ執筆時に世間を騒がせていた「シンプソン事件」および「裁判」に「無意識にインスパイアされていた(subconsciously inspired)」ことに、最近になって気がついた”とリンチは語っており、ダイレクトに「シンプソン事件」そのものが作品の着想になったというのとは、ちょっとニュアンスが違う感じである。

ギフォード側からの証言も、この「ニュアンスの差異」を部分的に裏付けるものだ。ギフォードによれば、そもそもリンチが持ち出した基本アイデアは「ある日、とある人物が目覚めると別人になっていた、というのはどうかな?」というものだったらしい。そして、このリンチのアイデアのようなことが実際に起きるとしたら、それはどういう状況下であるのか……というところが作品の出発点となったとのことだ。興味深いのは、「自分が犯した犯罪についての記憶がない犯罪者」はシンプソン以前にも実在しており、ギフォードがそうした「都合よく記憶をなくした犯罪者」を題材にした小説に関心をもっていたという証言があることである。このように、実は「ロスト・ハイウェイ」のどのアイデアがギフォードのものであり、どのアイデアがリンチのものかの境界線は、非常に不明瞭なのである。

この「境界線の不明瞭さ」は、リンチとギフォードが採用した執筆方法と密接に関係している。この二人がシナリオを共同執筆したときいて、まず外部の人間が想像するのは「ストーリー的な骨組みを小説家であるギフォードが作り、そこにリンチが発想する事象を盛り込んでいく」というやり方だろう。だが、実際はそういった「役割分担」は存在せず、意見交換を行ないがら全体を二人で構築したという両者からの証言が残されている。こうしたシナリオ執筆手順が上述した「不明瞭さ」につながっているのは間違いなく、むしろリンチとギフォードがともに暖めていたアイデアの「融合物」として「ロスト・ハイウェイ」のシナリオが成立した……と捉えた方がより正確であるようだ。

同様の指摘……つまり「境界線の不明瞭さ」は、たとえばロバート・アルドリッチ監督のフィルム・ノワール作品である「キッスで殺せ!」(1955)からの引用……「炎上する小屋」や「自動車修理工場の親父」といった引用についても当てはまる。リンチのフィルム・ノワールに対する嗜好は「ブルー・ベルベット」あるいは「ツイン・ピークス」などをみても明らかだが、実はギフォードもフィルム・ノワール作品に対する造詣が深く、「Out of the Past: Adventure in Film Noir」という書名のノワール作品に関する著作もあるぐらいなのだ(この書名自体が、ジャック・ターナー監督のフィルム・ノワール作品「過去を逃れて」(1947)に拠っている)。はたしてこの「キッスで殺せ!」からの引用のアイデアがリンチのものなのか、それともギフォードのものなのかについては、具体的な証言もなくまったく判然としない。だが、両者のうちどちらが提案したとしても、もう片方が賛成して採用されたであろうことは間違いないように思われる。

また、ギフォード側からの発言としては、「ミステリー・マン」の原型がイングマール・ベルイマン監督の「狼の時刻」(1968)に登場しており、それへのオマージュであることも明らかにされている。確かに、「狼の時刻」の画家ユーハン・ボイルが抱く「幻想」と、「ロスト・ハイウェイ」のサキソフォン奏者フレッドが抱く「幻想」は同質のものであるといってよい。そして、その悲劇的結末に関しても、この二作品は共通性を備えているといえるだろう。逆に、リンチ側からは、「パーティに来ていたウブな男に、別の若い男が奇妙なことを吹き込むというアイデアをギフォードに話したところ、彼の顔が輝いた」という証言*が残されている。これらの発言をみるかぎり、「ミステリー・マン」もまた、リンチとギフォードのアイデアが「融合」した例として理解してよいようだ。

*「映像作家が自身を語る デイヴィッド・リンチ」 P.299

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