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2008年8月16日 (土)

「インランド・エンパイア」を観た(X回目) (107)

オリンピック期間中も関係なくチマチマと続く、「インランド・エンパイア」における「イメージの連鎖」話である。あいかわらず時事ネタ・フリーなんである(笑)。今回は(0:44:19)から(0:52:19)までを、飛び飛びに。

この後、「ON HIGH IN THE BLUE TOMORROWS」に関する撮影風景がいくつか提示される。そのうち、「演技者=ニッキーの混乱」に関連するシークエンス群については既に述べたので、ここでは触れない。残る撮影風景のほとんどは、演技者ではなくスタッフを中心に描かれているが、そこに発生しているのは「統制のとれた活動」というよりはむしろ「混沌と混乱」である。こうした「スタッフの混乱」を描いたシークエンスを以下に列挙してみよう。この一連のシークエンスでは、日本語字幕では訳出されていない「台詞」が多々あるので、それを補完するために原文も同時に引用しておく。

パート1 (0:44:19)-(0:45:40)
キングズレイ: (メガホン越しに) Yeah. Yes. Look. Bucky Jay, are you there?
キングズレイ: (横に立つスタッフに向かって) Is-- Is he-- Is he up there?
スタッフ: (画面外から) He's there, yes.
キングズレイ: (メガホン越しに) I-- I think we-- we haven't still got the 2K quite in the right place. I-- I think I'd say up two feet. You'd know better than me. But, uh, it's-- it's still...
バッキー・ジェイ: (画面外から) Boss, you want that 2K down?
バッキー・ジェイ: (画面外から) You want it down?
キングズレイ: (メガホン越しに) Yeah. Uh, I'd say about... two feet down, Bucky.
バッキー・ジェイ: (画面外から) How far do you want it to go down?
キングズレイ: (メガホン越しに) Yeah, a bit-- a bit more. Keep--
バッキー・ジェイ: (画面外から、さえぎるように) No. How far?
キングズレイ: (メガホン越しに) Another foot, Bucky. (he looks at assistant)
バッキー・ジェイ: (画面外から) I haven't even-- I haven't even touched it yet!
キングズレイ: (メガホン越しに) Well, then put it two feet from where it is-- No, a foot down from where it is now, Bucky.
バッキー・ジェイ: How much?
キングズレイ: (メガホン越しに) What?
バッキー・ジェイ: (画面外から) Got it, boss!
キングズレイ: (メガホン越しに) Uh, Bucky, I-- Bucky, just lower it two feet, would you? From there. No, Bucky. It's going up. I want it down, Bucky. Two feet lower.
バッキー・ジェイ: (画面外から) First goddamn time I-- I had a cramp! Just minute! I'm getting on it!
ファーストA.D.: He's got issues with his wife.
キングズレイ: (苦笑いして) Yeah. Okay.
キングズレイ: (メガホン越しに) Thank you, Bucky.

パート2 (0:45:40)-(0:45:51)
キングズレイ: (画面外で) Can we have someone else do--
ファーストA.D.:(画面外で) Let me go talk to him.
キングズレイ: Uh, just, uh... relax for a minute. Yeah, Okay.

パート3 (0:45:51)-(0:45:59)
スタッフ : (画面外で) Listen--
ファーストA.D.:  (画面外で) Okay, the medic-- the medic's gonna see him, check it out, see what's going on, 'cause it just--he's not acting right.

パート4 (0:45:59)-(0:46:33)
ファーストA.D.: (画面外で) Yeah, but who's-- If he was on anything, I'd kick him out right off the set.
スタッフ: (画面外で) Phill's on it.
キングズレイ: (画面外で) Okay.
ファーストA.D.: Phil-- Phil's in-- We've got Phil up there now. Bucky Jay's gonna take a little coffee break.
キングズレイ: (画面外で) Okay. Fine.
ファーストA.D.:
Please, guys, let's work on these lighting cues, all right? We need to work together.

パート5 (0:49:43)-(0:50:08)
キングズレイ: Here we are. I was right. Didn't anyone else read the script? The light should fade after Billy's line: "Do you see?" Look.
キングズレイ: (スタッフに向かって) Well?
ファーストA.D.: All right. All right. (インカムに向かって) Uh, we go again, please. Back to one, everybody.
スタッフ: [ノルウェイ語で] (画面外の別のスタッフに向かって) n#vdo+&es. (Ole Johan, I gave you too late cue for that fade out. It was my fault.)
別のスタッフ:(画面外から) [ノルウェイ語で] 9v37$(k&.

パート6 (0:50:08)-(0:50:19)
アル: (画面外で) It was a car.
キングズレイ: (画面外のスタッフに向かって)  No, it was a click, Al. It wasn't a car. It was a click.
ファーストA.D.: (インカムに向かって) Guys on lockups outside. Can we work on that, please? I-- Really, I can't have cars going by.

パート7 (0:50:19)-(0:52:19)
ファーストA.D.: (画面外で) I thought we had, uh, ITC.
キングズレイ: (画面外で) I don't think it was a car. I think it was click.
キングズレイ: (画面外で) It's something in the wire. I don't know what--- will you pick that up?

パート1~4では、「ステージ4」を舞台に「成立しない会話」のモチーフのヴァリエーションが提示される。キングズレイ監督と照明係バッキー・ジェイとの間の、照明用ライトの位置についての遣り取りである。だが、実はこの「成立しない会話」が「機能しない家族」というテーマのヴァリエーションに収束していくことは、以前にも述べたとおりだ。残念なことに、日本語字幕ではアシスタント・ディレクターがキングズレイに耳打ちする「彼は嫁さんとの間に問題を抱えてまして(He's got issues with his wife)」という台詞が訳出されておらず、このシークエンスが内包するものを明確に伝えていない。バッキー・ジェイが抱える「妻との間の問題」は、当然ながら「機能しない家族」の「個別例」のひとつであり、ニッキーやスーやドリスが抱える「機能しない家族」の諸例とあわせて、「機能しない家族」の抽象概念を構成するのである。あわせて、バッキー・ジェイが演技者でもなければ登場人物でもない「スタッフ」であり、かつ彼が「男性」であるにもかかわらず「個別例」として提示されていることは、「機能しない家族」という概念の「一般性/普遍性」を強調するものだといえるだろう。

この後パート2~4において、バッキー・ジェイを医者に診せたり、彼の代役を探したり、ようやっとフィル(Phil)という交代要因が持ち場についたりと、実はバッキー・ジェイの不在が撮影現場に大きな影響を与える様子がいくつか描かれる。また、このバッキー・ジェイがらみのパートの諸映像から思い浮かぶのは、「ロスト・ハイウェイ」のプロデューサーであったディーパック・ナヤールによる、「映画製作」は「金と時間と人間によるパズル」であるという言及だ。ここで提出されている事象は、そうした「人的パズル」の解を求める作業であり、映画製作が集団作業であることの一端を垣間見させるものである。

パート5でも、引き続き「照明」に関するトラブルが発生する。今回はライトの位置ではなく、どのタイミングでライトをフェイドさせるかという、ライティング操作の「キュー」の問題だ。だが、パート4を子細にみると、最後にファーストA.D.によって「キューのタイミング」について注意が促されている。であるならば、やはりパート5で発生しているのも「バッキー・ジェイという熟練スタッフの不在」が引き起こしている「混乱」だといえなくもなく、もしそうであるならばこのパート5もバッキー・ジェイのエピソードの一部なのである。それを裏書するように、このパートにおいても、「異国語を喋るスタッフ」という形で「成立しない会話」のモチーフが断片的に提示される。これをストレートに捉えるなら、やはり「コミニュケーションの断絶」……スタッフ間の「コミニュケーション不全」に起因していると理解されるだろう。だが、よりポイントとなると思われるのは、キングズレイが照明スタッフたちに向かって言う「誰も台本を読んでないのか?(Didn't anyone else read the script?)」という発言だ。「台本」があくまで「言語」によって記述されるものであることを考えるなら、これもまた”「言語」と「映像」の間に横たわる「差異/断絶」”を表わすモチーフのヴァリエーションとして機能していることになる。キングズレイをはじめとするスタッフたちが現在行っているのは、「言語」で記述されている「台本」を「映像(の言語)」に置換していく作業に他ならないのである。

パート6およびパート7においては、撮影時の自動車の音と「キュー」出し用のクリックの混乱による「トラブル」が描かれる。このシークエンスをみるかぎり、現場のトップであるはずのキングズレイ自身ですら「混乱」しているのは明白だ。これらの撮影時の「ドタバタ=トラブル」が実際にリンチが体験したものかどうか、非常に興味深いところだが、いずれにせよ、こうした「混乱」の制御を目的とした「トラブル・シュート」=「介入/コントロール」の必要性が、一連のシークエンスによって強調されていることは間違いない。

そこで働くスタッフたちが、こうした「介入/コントロール」の対象であること……「動物」であることは、パート7でフレディが他のスタッフから「金」を借りているショットによって示唆される。そこでフレディが発する「台詞」が、彼がニッキーとデヴォンに無心をするシークエンス(0:40:01)における「台詞」の「リフレイン」であることからわかるように、このショットにおける「スタッフたち」と「ニッキー/デヴォン」は、どちらも「動物=自律しながらも上位からのコントロールを受けるもの」であるという点で「等価」である。当然ながら、この”「動物」としての「等価性」”は、この項で取り上げたシークエンスに登場するすべての「スタッフたち」に対して適用されるもんだ。なによりも、一連のシークエンスにおいて描かれる、「トラブル」に対してスタッフたちが「介入/コントロール」を行う様子は、フレディによる「犬」に関する言及…………「犬たちが自身の考えに基づいて困難な状況から抜け出す様子(I have seen dogs reason their way out problems, watched them think through the trickiest situations)」(0:39:28)という言及そのままではないだろうか。

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