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2008年3月12日 (水)

その後の「インランド・エンパイア」は統合失調症のハナシなのか?

もののついでと言ってはなんですが、この件で思うところなんかをいま少し。

「インランド・エンパイア」を「統合失調症」をキーにして解釈するアプローチを目にして、個人的にまず感じたのは、たとえば「気が狂ったように」という表現をそのまま「統合失調症を発症して」という語句に置き換えた文章を読んでるような「違和感」だったりしました。これは記号論的にいうなら、シニフィアンとシニフィエが混同されていることに対する「違和感」ということになるんでしょうか? 「映像」と「それが表すもの」が乖離したり捻れたりしている作品(リンチ作品に限りませんが)を評するに際しては、この両者の違いをしっかり押さえとかないと、いろいろワケがわからなくなるんじゃないかと思うんですが、どんなもんでしょう? ま、思い切りひらたく言ってしまえば「冗談を真にうけるな」ってことですかね(違うって)。

……というような「冗談」はおいとくとしても、半ばマジでいうなら、このような見方は、「表現者を殺す行為」につながり兼ねない危険性をはらんでいるように思います。「統合失調症」に対する一般の理解が広まるのは喜ばしいことなのでしょうが、映画作品の登場人物に対して安易に「精神分析理論」を用いたり「症例特定」を行ったりすることで、「作品論」として粗雑な議論をしてしまう危険性についても、また同時に理解されるべきでしょう。このあたりは、たとえば加藤幹郎氏の「ヒッチコック『裏窓』 ミステリの映画学」(みすず書房)に収められている「ヒッチコックによるラカン 映画的欲望の経済」(トレヴィル)に向けての批判を、(多少割り引きつつ)参照されることをお勧めします。

作品に対するアプローチ自体はいろいろあってしかるべきかとは思いますし、実際、海外の「インランド・エンパイア」関連掲示板をみても、「統合失調症」をはじめとした「精神疾患」をキーにしたアプローチはいくつも目にします。こうしたアプローチが共通してもつ欠陥は、「映像」と「統合失調症の症例」との断片的な合致の説明はあるものの、それが「作品の全体構造」とどう関連性があるのかを明確に提示していない(あるいは、できない)点です。なんとか「統合失調症の症例」と「全体構造」を関連づけようと試みたあげく、「昔、どこそこで誰ぞが誰ぞを殺して……」というような具象的な「省略された物語」を無理矢理作り上げる方向に向かうばかりなんですが、最終的にそうした「時系列整理」や「人物関係の整理」は破綻をきたさざるを得ないので、第三者に対する説得性を持てないでいます。困った果てに、「リンチ作品に分析は不要」といった、根拠もなく論の体も成していない「個人の印象」に逃げるのでは、あまりに表現者の創作物に対する「リスペクト」に欠けるうえに、それまで「統合失調症の症例」を挙げてきたのはなんだったのか、それを通じて何を論じたかったのか、まったく理解不能です。なんか、「統合失調症」をネタに風呂敷を広げたはいいが、どう畳めばいいのかわからなくなっているのが透けてみえるのは大山崎だけでしょうか。もそっとリンチの過去作品との対比を含めて、いろいろな方向からきとんと裏をとり、その「表現」を真摯に読み取る作業が必要なんじゃないかと思うのですけども。

でも、なんでみんな、なんでそう性急に「インランド・エンパイア」に関して結論を出したがるんでしょうか?(笑) 作品に対してどのような姿勢をとるかは人それぞれだし、どーでもいいといえばどーでもいいんですが、せっかく高いDVDを買ったんだし、表から裏から右から左から上から下から、もっとじっくりネチネチ検証してもいいんでないの? とも思うんですけど。配給会社やDVDメーカーは、「観客」に次から次へと新しい作品を「消費」してもらわないと困るのかもしんないですけどね(笑)。あ、「インスタレーション」を買った方は、一度、英文シナリオと対比させながら観ると、また新しい「世界」が広がるかもしれません。

ま、そんなとこで。

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